こんにちは。伏見みうです。
前回は「ねじ締結体設計のよくある失敗例と改善策 ねじのあるあるトラブル(初級編)」について、設計初心者がつまずきやすいポイントを整理し、よくあるミスとその対策について紹介しました。
今回は筆者の経験も交えて設計に慣れてきた頃につまずきやすいポイントを整理し、設計側・現場側で施せる対策について説明していきます。
目次
1.インチねじとメートルねじの混在
ねじを使った締結作業の現場では組み付け点数が多いため、ねじ一本一本を注視して外径やピッチを確認する時間が取れないことも少なくありません。
特にインチねじとメートルねじの両方を使う現場では、ねじの混在による取り違いが起きやすくなります。
日本ではメートル法が採用されているので、国内製品はメートル単位で設計されており、締結もメートルねじを使います。
一方、アメリカやイギリスではヤード・ポンド法が使われているため、インチ単位で設計されている製品はメートルねじではなくインチねじで締結されています。
このため、アメリカ・イギリス向けの製品や輸入製品、国内でも過去にアメリカやイギリスから導入した製品では、インチねじが使われていることがあります。
インチねじとメートルねじを取り違えても、ほとんどの場合は外径もねじ山のピッチも異なるため噛み合わず、そこで気づいて新しいねじを取りに行くことになります。
このとき起きるトラブルとしては短期的に見れば「作業効率の低下」、長期的に見れば「整理整頓ができていないことに起因する安全上の問題」となります。
しかしながら、例えばM6のメートルねじ(外径約6.0mm・ピッチ1.0mm)と1/4-20UNCのインチねじ(外径約6.35mm・ピッチ1.37mm)は外径やピッチが近いため取り違えやすく、かつ仮締め時に最初の数山で誤噛み合いが発生することがあります。
締結を続けると途中でねじ山が噛み合わなくなり、ねじの進みが重くなりますが、このまま無理に締結を続けて慌てて外そうとすると、ねじ山の破壊やねじ寿命の低下につながります。
こうしたトラブルの主な原因として、以下の点が挙げられます。
■ねじの管理が徹底されており、メートルねじとインチねじは使用する工具も異なるため混在することはないという思い込みから、使用するねじの単位系をスケール等で確認していなかったこと。
■ベテラン作業員は日常的に使用しているねじであれば、見た目や触感でサイズを判断できることがあるため、感覚に頼ってねじのサイズの判別を行っていたこと。
■整理整頓が十分に行われていない現場において、異なるサイズや単位系のねじが近接した場所に保管されており、取り違えが発生しやすい状態であったこと。
■ねじ保管場所に関する単位系(メートル/インチ)の指示・表示が不明確で、現場で即座に判断できない状況であったこと。
イケキンではこのようなねじの取り違いを防ぐため、表面処理によってねじサイズを視覚的に識別できる「酸化発色ねじ」をラインアップに加えています。
この酸化発色処理は、従来は対応が難しかったステンレス製のねじに施すことができ、食品業界で使用できない処理剤を含んでいないため、幅広い用途で使用可能です。
(詳しくは「ステンレスねじのピッチ(並目・細目)の見分けがつかない…そんな時は『酸化発色』で色付け!」を参照してください。)
このようなねじを活用することで、ねじサイズの確認を作業者の注意力だけに頼るのではなく、識別しやすい仕組みとして現場に組み込むことができます。
現場の作業効率の向上や、ねじの取り違いによるトラブルの防止のため、導入を検討してみてください。
解決案:(設計側)
■組み立て現場でインチねじとメートルねじを使うラインが近くなる場合、設計時からそれぞれのねじが物理的に入らない組み合わせを検討
解決案:(現場側)
■インチねじ、メートルねじの在庫場所を色分けするなどして識別
■定期的にねじゲージで使用するなど、ねじのサイズを確実に確認
■途中でねじが重くなる、というのはNGのサインと教育

2.ロック剤の落とし穴
ねじロック剤は、ねじ山の隙間に入り込んで空気を遮断した状態で硬化することでめねじとおねじを接着し、ゆるみを防止する目的で使われます。
しかし、ロック剤を塗布していても、特定の条件が重なることで十分に機能しない場合があります。
例えば、ロック剤を使用しているにもかかわらず、十分な接着層が形成されていない場合、振動や温度変化の影響によって「ロック剤を使っているのにねじがゆるんだ」といったトラブルが発生します。
また、ロック剤を使用した締結部をメンテナンス時に分解しようとした際にねじが破断してしまうケースもあります。
こうしたトラブルの主な原因として、以下の点が挙げられます。
■ねじ部に切削油や潤滑油、防錆油などが残っており、ロック剤が十分に硬化しないこと
■ステンレスやアルミなど、ロック剤の硬化反応が起きにくい材質を使用していること
■分解を想定していない高強度タイプのロック剤を選定してしまっていること
■高温環境下でロック剤の性能が低下、または分解し、設計時に想定したゆるみ止め効果が維持できなくなること
■ロック剤の粘性や潤滑状態の変化により、設計時に想定した軸力が得られず、初期締付不良が発生すること
■ロック剤とゆるみ止め用のくさびロック式ワッシャー等、機械式ゆるみ止め部品を併用したことで摩擦条件が複雑化し、適正な締付軸力が確保できず、締付不足や新たな不具合の原因となること
このように、ロック剤は「塗れば安心」というものではなく、使用条件や選定を誤ることで、かえってトラブルの原因となることがあります。
イケキンではこうした課題に対する解決案の一つとして、「シーホースロック」をラインアップしています。
シーホースロックはプレコートタイプのねじのことで、現場でロック剤を塗布する必要がなく、ねじ部に油分が残っていてもロック剤が硬化しないといった原因を排除することができます。
シーホースロックを使った課題解決事例の詳細は、こちらを参考にしてみてください。
解決案:(設計側)
■ロック剤の役割を明確化
ロック剤はゆるみ止めの主手段ではなく、締結条件を補助的に固定する手段として位置づけます。
■使用条件を設計情報として明示
ロック剤の使用有無、強度区分(低・中・高)、分解前提の有無を、図面や仕様書で明確に指定します。
■温度・材質を考慮して選定
使用温度域や、アルミ・ステンレスなどの材質条件を踏まえ、ロック剤が適合するかを事前に確認したうえで、使用するロック剤を指定します。
■シーホースロックなど、ロック剤に頼らない締結方法も併せて検討
振動が発生する部位や重要な締結部ではフランジボルトや機械的ゆるみ止め部品との併用、もしくは設計側でシーホースロックの使用を明確化します。
解決案:(現場側)
■ロック剤の塗布量は必要最小限とし、1~2滴程度を目安に使用し、「多く塗れば安心」という考え方を排除
■塗布前に、ねじ部に付着した油分や切粉、防錆剤を除去し、ロック剤が確実に硬化できる状態の確保
■分解時に異常な抵抗を感じた場合は無理に回さず、加熱など正しい手順を踏むことで、ねじの破断を防止
設計側でシーホースロックの使用を明示された場合、現場作業では以下のメリットがあります。
■ロック剤塗布作業を不要とし、作業者による品質ばらつきを排除
シーホースロックはあらかじめ適量のロック剤が塗布されているため、現場での塗布作業が不要となり、「塗りすぎ」「塗布不足」「はみ出し処理」などの作業起因の不具合を防止できます。
■脱脂処理済のねじにより、硬化不良のリスクを低減
プレコート加工工程においてねじ部の脱脂処理が行われているため、油分残留によるロック剤の硬化不良を防止し、安定したゆるみ止め効果を得ることができます。
■従来どおり適正な締付作業を実施することで、安定した締結品質を確保
現場ではロック剤塗布に関する追加作業を行う必要がなく、適正な締付トルクで締結することで、設計時に意図した締結性能を確実に再現できます。
■分解時は薬剤特性に応じた適切な手順で対応
抵抗タイプや固着タイプなど、選定された薬剤特性に応じて適切な分解手順(必要に応じた加熱など)を実施することで、ねじの破断や損傷を防止できます。

3.トルク管理をしているのにねじがゆるんでしまう
ね規定のトルクで締結しているにもかかわらず、製品の使用中に振動の影響でねじが徐々にゆるんでしまうことがあります。
また、一度ゆるんだ箇所を再度締結しても、同じ箇所で再びゆるみが発生するケースも少なくありません。
このような締結不良は異音の発生や部品の位置ズレ、さらには部品破損につながることもあります。
この現象はトルク管理を行っていないからではなく、トルクを一定にしても軸力にばらつきが生じることが原因となっている場合があります。
こうしたトラブルの主な原因として、以下の点が挙げられます。
■トルクレンチを用いた締結トルク管理では、締結トルクの約90%がねじ部や座面の摩擦によって消費され、実際に締結力として作用するのは残りの10%程度(詳しくは「技術コラム:ねじの締付管理方法」を参照)
■締結部品の潤滑状態や表面粗さ、座面の状態といった摩擦条件が想定と違う場合に発生する締結力不足
■意図した締結力が得られず、使用中の振動や熱膨張の影響でゆるみが発生
解決策:(設計側)
■座面条件を設計時に決定
平座金かフランジかなどといった座金の有無や種類、座面が加工面か塗装面かといった条件を設計条件として明示し、現場判断に委ねず、締結条件を固定することが重要です。特に平座金などを使用して座面状態を均一化することは、締結時の摩擦変動を抑えてトルク係数の安定化に有効です。
■表面処理を含めて締結条件を統一
ボルト、ナット、座金のメッキ種類や表面粗さ、潤滑状態をセットで設計指定し、摩擦条件のばらつきを抑えます。適切な潤滑状態を設計段階で定義することで、座面およびねじ部の摩擦を安定させ、トルク値から軸力への変換精度を向上させることができます。
■トルク単独管理に依存しない方法を検討
重要な締結部では、トルク管理に加えて回転角法などを併用することで、摩擦度合いのバラつきによる影響を低減します。
重要なのはトルク係数を左右する摩擦条件を設計段階で安定化させることです。座面状態の均一化や潤滑条件の適切な管理を行わない場合、トルク管理を行っていても必要な軸力が得られず、結果としてゆるみの原因となる可能性があります。
解決策:(現場側)
■締結前に座面状態の確認
塗装だまり、メッキの潰れ、異物の噛み込みがないかを確認し、必要に応じて清掃を行います。
■工具を正しく使う
トルクレンチは所定の位置を持ち慣性をつけすぎない、二度締めをしないなど、工具をマニュアル通り正しく使うことを徹底します。

4.まとめ
今回は設計に慣れてきた頃に陥りやすい、ねじ設計の「あるある」な失敗例を三つ紹介しました。
ちなみに筆者の家族は英国製の車に乗っており、筆者自身は国産車に乗っています。
そのため、インチ仕様とメートル仕様の工具やねじの取り違いには人一倍気を遣っていますが、過去に実際に取り違えてしまった経験もあります。
このように、注意していても思い込みや慣れによってミスが起きることがあります。
起きやすいトラブルについては現場や設計のベテランの方々から話を聞き、日頃から対処法を意識するよう努めてください。
経験に基づいた知見は、図面や規格書だけでは補いきれない重要な情報となります。
たかがねじ締結と思われがちですが、されどねじ締結です。
起きるはずがないと思っている場面ほど、トラブルは発生しやすいものです。
過去の経験や、設計や現場のベテランの方がどのように対処してきたのかを意識して聞き、日々の設計に生かしてみてください。
次回は設計上級者であっても陥ってしまう、ねじ設計のあるあるな失敗例を紹介する予定です。
引き続き読んでいただけると幸いです。
