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技術コラム

人手不足時代のねじ締め作業効率化 ― 接着剤塗布からプレコート加工へ

2025.11.17
ねじの課題解決

1. 生産年齢人口はどうなる?

生産年齢人口とは15~64歳の人口を指し、企業などの生産活動を支える人のことです。
日本のそれは少子および高齢化の進行によって、1995年をピークに減少しています。
この影響は今後あらゆる業界・分野において深刻な問題に発展することが予想されます。
統計上では1995年には8,716万人でしたが2040年には約3割強減少し、およそ6,000万人になるという予測があります。(※1)
つまり、働き手が少なくなる、ということです。
(※1)引用元:日本経済新聞2023年3月20日より

2. ねじ締め作業は時間がかかる

ロボットの開発によりライン生産方式ではねじ締めの自動化が進んでいますが、セル生産方式ではまだまだ作業者によるねじ締め(もちろん多くは電動ドライバーなどの工具を使用)に頼っているのが現状です。
そして、そのねじ締め作業は総じてある程度の時間を要します。
筆者の経験上ではありますが、多くの企業でセル生産(一部ライン生産の要素を取り入れている方式も含め)を取り入れているため、それだけ作業者によるねじ締めに時間をかけていることになります。
中には付帯作業を伴うねじ締めもあります。
代表的なものとしては
①手作業でねじ部に接着剤塗布
②本締めの前に仮締め
③手作業で座金組み込み
④母材との色合わせのため頭部塗装
といったものがあります。
実際、ねじ締め作業そのものは無くすことは難しいとしても、付帯作業については改善の余地がある場合があります。
本コラムでは①の「手作業でねじ部に接着剤塗布」を改善する方法を、実際の事例をもとに解説します。

ワークの概要

機械装置を保護するカバーを六角穴付きボタンボルトで固定しています。
過去に輸送後にボルトの回転ゆるみ、場合によっては脱落があったため、対策としてねじ部への接着剤塗布工程を追加しています。
接着剤は締付けの直前に作業者が塗布します。
その他ワークの概要は以下の通りです。
・被締結物・・・薄板鋼板(粉体塗装付き)
・ボルトの強度区分・・・10.9
・ねじサイズ・・・M6
・1台あたりボルト本数・・・100前後~200本程度
・締付けトルク・・・13.0N.m
使用するボルトは、正確には「つば付きボタンボルト(フランジ付きボタンボルト)」です。
このボルトを使用する理由は、相手母材が薄板の鋼板であり、さらに塗装が施されているためです。
母材の変形や塗膜の圧縮によって生じる非回転ゆるみの発生を抑制する目的があります。

ゆるみの種類

ゆるみには、大きく分けて二つの種類(正確には二つの経路)があります。

一つ目の経路は、「外力 > 軸力」という力関係によって、軸力が外力に負けてしまう場合です。
このとき、ある大きさの外力が加わることで、被締結物同士の接触面やボルト・ナットの座面において、繰り返しのスベリが発生します。
その結果、ボルトが締付け方向とは逆方向に回転し、軸力が低下します。
この現象を「回転ゆるみ」と呼び、ねじにおいては致命的なゆるみの一つです。
対策としては、頭部座面やねじ部の摩擦を高め、スベリを起こりにくくすることが効果的です。
このワークのように接着剤を塗布する方法も、摩擦を高める有効な手段のひとつです。

二つ目は、「軸力 > 締結体の強度」という力関係が成立することで発生する現象です。
これは、発生した軸力が被締結物やボルトの強度を上回り、それらを破壊してしまうことが原因です。
具体的には、締付けすぎによって被締結物の表面が陥没してしまったり、ボルトが伸びきって元に戻らなる状態を指します。
この現象は「非回転ゆるみ」と呼ばれ、温度変化や時間の経過によっても発生することがあります。
さらに、非回転ゆるみはねじを締めた直後から起こることも多く、「初期ヘタリ」や「なじみ」と呼ばれることもあります。

3. 接着剤塗布はとにかく時間がかかる!

ねじのゆるみや脱落が発生したとします。
状況から見ておそらく回転ゆるみが発生しています。
この場合の対策として接着剤塗布工程を追加する方法自体は有効です。
(回転ゆるみが発生する仕組みについては、Vol.1をご参照ください。)
ただ、接着剤の塗布作業はとにかく時間が掛かります。
機械1台あたり数本~数10本ならともかく、100本以上ともなると多くの時間を必要とします。
念のため断っておきますが、接着剤の塗布工程が悪い、と言っているわけではありません。作業に時間が掛かる、ということです。
また人による作業の難点として、塗布量のミスによるムラや塗布忘れの発生があります。
塗布ムラがあればやり直し作業が発生、さらに塗布忘れが発生することもあります。

4.何が弊害となっているのか?

今回の事例に話を戻すと、このワーク、つまりつば付きのボタンボルトに接着剤塗布でのゆるみ対策に特に問題は無いと考えます。
ただ既に述べたように、作業効率を考える上では接着剤塗布が弊害となっています。
この問題を解消する方法として、あらかじめ接着剤に相当するものを塗布しておく加工があります。
これを「プレコート加工」と呼びます。
「プレ=あらかじめ」、「コート(=覆う」という意味のとおり、ねじにあらかじめ接着剤を塗布しておくことで、組立時に接着剤を塗布する工程を省略できます。
イケキンでは、このプレコート加工を「シーホースロック」という名称で販売しています。
加工はイケキン側で実施するため、現場の作業者はねじを締め付けるだけで済みます。
これにより、作業時間の大幅な短縮が見込め、塗布ムラや塗布忘れといったヒューマンエラーの防止にもつながります。

5.現在使用の接着剤との比較はどのように行なうのか

前項で簡単な対策をご紹介しましたが、トラブルの本質は決められたトルクで締め付けた際に、どれだけの軸力が出ているのかを把握していないことです。
特に今回のケースでは、ボルト本数が多いので、軸力のバラツキを確認しておく必要があります。
さらには、実際に稼働させて、時間経過で軸力がどう変位するのかも確認することも有効です。
例えば、機械を100時間稼働させた後、500時間稼働させた後、どのぐらいの軸力が残っているのかを確認することです。

6. 軸力を可視化するには

接着剤塗布からプレコート加工に変更すると、ゆるみに対する効果はどうなるのかという懸念が出てくると思います。
こちらに関しては、比較試験をすることで可視化できます。
試験の例としては以下のものがあります。

①戻しトルク試験

ねじを一度締付けた後戻し方向に回転させ、そのトルクを計測する方法です。
ただ、通常のトルクレンチでは最大トルクの測定になるため、イケキンでは「PCトルクアナライザー」での試験を推奨しています。
PCトルクアナライザーとは、タッピンねじや小ねじなどの締付けトルクを動的に分析する測定機器で、締め外しの際のトルクを1,000分の1秒(msec)毎に測定できます。
これを用いてそれぞれの戻しトルクを計測し比較します。

②NAS式振動試験

米国航空宇宙規格に準拠した衝撃振動試験装置です。
ボルトを決められた試験治具に取り付け、約30Hz、振幅約11.4㎜で30,000回(約17分)の衝撃振動をボルトの軸直角方向に加え、ねじのゆるみ状態を確認します。

③NAS式振動試験後、戻しトルク試験

①と②の試験を組み合わせたもので、衝撃振動を加えた後に戻しトルクを測定します。

④繰り返し試験

プレコート加工には固着タイプと抵抗タイプの2種類があります。
固着タイプは、ゆるみ止め液の中に接着剤が封入されたマイクロカプセルが入っており、ねじを締付ける圧力で破れ、マイクロカプセルの外にある硬化剤と化学反応を起こし、接着効果が生まれます。
抵抗タイプは主に樹脂等をねじに塗布することで、相手のねじ部との抵抗によりゆるみ止め効果を発揮するものです。
固着タイプは繰り返し使用できませんが、抵抗タイプは条件によって繰り返し使用が可能です。
繰り返し試験は、締め外しを繰り返した際にどの程度の締付けトルクと戻しトルクが発生するのかを測定します。

7. あとがき

決められた通りに作業しているにもかかわらず、きちんとねじが締まらない。
製品の運搬中や稼働中にねじがゆるんで脱落した、ボルトが折れた。
ねじ締め作業の工数を減らして、効率よく組立したい、等々。
これらは実際、イケキンにご相談いただいたトラブルや課題です。
解決するためには、適切な評価試験をする必要があります。
ところが、どのような評価試験を実施すれば良いのか分からない、といったねじユーザーは少なくありません。
極端な例では、まったく見当違いの、意味の無い評価試験をしようとしてしまうねじユーザーも…。
試験内容は、ねじの種類や相手母材、製品の大きさ、どのような環境で使用するのか等、条件によって異なります。
イケキンでは、長年培ってきた経験を元に、適切な評価試験をご案内し、その上で最適なねじ締結をご提案いたします。
まずは、お気軽にご相談ください。

今回の解決製品と軸力測定サービス

①プレコート加工
シーホースロック

②評価試験
トルク試験
NAS式振動試験

曖昧な内容でも遠慮なくご相談ください!
じっくりお話をお伺いし、解決方法をご提案いたします

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りびぃ
「ものづくりのススメ」サイト運営者

 

2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。

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