目次
1.サイズが同じなら、どのねじも同じ?
ねじの選定は意外と奥が深いです。
まず、ねじの要素である形状、材質、サイズを最適に組み合わせる必要があります。
それと同時に相手材との相性も考慮に入れなければなりません。
相手材は、鉄鋼もあれば、アルミや樹脂もあり、薄板なのか厚板なのか、表面にはめっきや塗装を施しているのか、等々。
その中でも、タッピンねじの選定に苦慮する設計者は少なくありません。
なぜかというと、タッピンねじの特性にあります。
タッピンねじは、あらかじめ開けた下穴にねじ込むことで、ねじ部が相手材にめねじを成形し、締結を行うねじです。
ただし、相手材の種類や厚み、下穴の大きさや精度、さらに締付トルクや締付けスピードによっては、思わぬ不具合や深刻な問題を引き起こすことがあります。
タッピンねじは同じサイズでも、ねじ部や頭部の形状や相手材によって締結精度がまるっきり変わります。
筆者の経験上、タッピンねじのトラブルで杜撰だったと記憶しているのが、ねじの種類を考慮せずねじサイズのみワークに合わせた事例です。
今回ご紹介するのは流石にここまで杜撰ではありませんが、タッピンねじの種類と相手材の組み合わせをほとんど考慮しなかったと考えられる事例です。
ワークの概要
産業用機械に使用するケーブルハーネスの固定金具を、相手母材である合成樹脂製カバーに取り付けています。
その際に使用しているのがタッピンねじ1種(Aタッピン)なのですが、実はこの時点で「トラブルが発生しそうだ」ということが容易に想像できます。
なぜか。
タッピンねじ1種は基本的に相手母材が薄板の鋼板の場合に使用するもので、合成樹脂には不向きだから、です。
案の定、生産ラインにおいてトラブルが発生していました。
どういうトラブルかというと「相手母材である樹脂が硬すぎてねじが締められない(入らない)箇所がある」のです。
つまり、あらかじめ設計段階で取り決めた締付トルクでは相手母材にねじ込めない、ねじ頭部が着座しないという状況です。
では、どのように作業を完了させているかというと、電動ドライバーで着座しない箇所は作業者が手回しのドライバーで力任せに締付けているそうです。
当然ながら、時間ロスが発生しますし、作業者の負担も大きく、作業中に手首を痛めることもあるそうです。
実はこの場合、相手材が悪いわけでも、ねじが悪いわけでもないのです。
何が悪いのかと言うと「相手母材とねじの組み合わせが悪い」のです。
この事例に対し、イケキンではどのように解決のお手伝いをしたのか、順を追って説明していきます。
まず、ねじの基本的なところからおさらいしていきます。
ねじ部の形状
ねじ部の形状は主に3種類あります。
①ボルト、小ねじ・・・ナットやタップなど、めねじがあるものとの締結。
②タッピンねじ・・・あらかじめ明けておいた下穴にねじ込んで、ねじ部でめねじを成形して締結。
③ドリルねじ・・・ねじの先端にある簡易的なドリルで下穴を明け、その後ねじ部でめねじを成形して締結。
※おねじの種類についてはこちらのコラムでも解説しています。
https://www.ikekin.co.jp/column/7863/
ボルトや小ねじはめねじさえあれば相手母材が厚くても締結できるのに対し、タッピンねじはその特性上、主に薄板の鋼板や樹脂の締結に使用します。
ドリルねじは、主に鋼板の締結に使用しますが、機械メーカーではあまり使われることがありません。
今回の事例で使用しているタッピンねじはJIS規格では6種類あります。
①1種(Aタッピン)・・・主に薄板(1.2㎜ぐらいまで)の鋼板用
②2種(Bタッピン)・・・主に厚板(5㎜ぐらいまで)の鋼板や合成樹脂、アルミ用
③3種(Cタッピン)・・・主にBタッピンより厚板の鋼板用で、めねじはミリねじとの互換性あり
④4種(ABタッピン)・・・主に厚板(5㎜ぐらいまで)の鋼板や合成樹脂、アルミ用で、Bタッピンの先端が尖ったものだが、市販性は低い
⑤2種みぞ付き(B1タッピン)・・・Bタッピンの派生で、先端1/4がカットされていて、この部分がカッターになり、相手母材を削りながらねじ込む
⑥3種みぞ付き(C1タッピン)・・・Cタッピンの派生で、先端1/4がカットされていて、この部分がカッターになり、相手母材を削りながらねじ込む
今回の事例は、合成樹脂の母材にタッピンねじ1種を使用しているというものです。
1種は薄板鋼板用で他のタッピンねじよりもねじ外径が大きいので、下穴によってはねじが入りにくいという事態が起こり得ます。
2.タッピンねじ選定のプロセス
既に生産ラインに投入されていて、トラブルが発生している場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
当然ながら、ねじの選定からやり直すのが一番の近道です。
それには3つのステップがあります。
ステップ① ねじの選定
既に記述したJIS規格の6種類のタッピンのうち、1種から3種までの3種類のうち、相手材を基準にして当てはめます。
タッピンねじはJIS規格品の他に、メーカーオリジナル製品が数多く開発されているため、メーカーが推奨する相手材用のものもいくつか選定しておきます。
ステップ② 締付破壊トルク試験
相手材の任意の下穴に「どこか」が壊れるまでねじ込みます。
「どこか」とは大抵は、ねじバカが起こるのか、頭部浮きが起こるのか、ねじの頭が飛ぶのかです。
これによりどの程度の締付トルクで締結体が壊れるのかを把握します。
この試験を締付破壊トルク試験といいます。
ステップ①で選定した何種類かのタッピンねじを比較のために試します。
締付破壊トルク試験での重要な判定基準に、ねじ込みトルク(以下、TD)と破壊トルク(以下、FD)の比率があります。
これをF/D比といいます。
ねじ込みトルクは、相手材にめねじを立てるために必要なトルクで、これが設定トルクよりも高いと頭部が着座せず、ねじ浮きが発生します。
破壊トルクは、相手材に成形されためねじ、又はねじが破壊するトルクで、これが設定トルクよりも低ければ、ねじバカや空転が発生します。
理想的な締付け条件は、TDとTFが離れていること、つまりF/D比が高いことです。
安全な締結を目指す際に目安となるF/D比は、相手材が金属なら3.0以上、樹脂などの軟らかい材質なら3.5以上がそれぞれの推奨値です。
まずは、この数値に近い条件のねじと相手材の組み合わせを作り、ねじ込みトルクと破壊トルクの間に目標締付トルクを設定します。
ステップ③ 締付トルク試験
ステップ②で実施した締付破壊トルク試験で得たねじ込みトルクと破壊トルクの間で目標締付トルクを設定し、その締付トルクで締付けてねじ浮きやねじバカが発生しないかを確認します。
3.熱可塑性樹脂専用タッピンねじ「ノンサート」
そもそも、このワークは相手材が樹脂なので、タッピンねじ1種ではなく、タッピンねじ2種や樹脂用タッピンねじを使う必要があります。
何種類ものタッピンねじをステップ②~③でご紹介した試験をする中で、最もF/D比が高かったものが「ノンサート」でした。
ノンサートは熱可塑性樹脂専用タッピンねじで、JIS規格タッピンねじがねじ山角度60度に対し、30度になっており、相手材に鋭く切り込むため、TDが低くなる傾向にあります。
また、細い軸でねじの谷部分が深く、ねじの山部分が張り出した形状により、ねじ山とねじ山との間に相手材である樹脂を多く抱え込むため、TFが高くなります。
今回の解決製品と評価試験
②トルク試験