どーも、しぶちょーです。
世の中の機械にはさまざまな「締結」が使われています。締結とは、部品と部品を繋げる技術です。どんなに複雑な部品でも、分解していけば細かい部品の組み合わせです。それらの部品が締結されることであらゆる機械は成り立っています。地味ながらも、繋げる技術は非常に重要なのです。そんな締結技術の代表といえば、ねじです。
ねじは小さな機械要素部品ですが、侮ることなかれ。ねじ一本を笑うものは、ねじ一本に泣く・・・そう言い切ってしまっても過言ではないほど、ねじは機械にとって重要な役割を果たします。しかしながら、設計を始めたばかりの新人はその大切さがわからず、思わぬところでつまずきます。本記事では、新人が陥りやすいねじに関する”思い込み”3選を紹介します。自分の思い込みに気が付くキッカケになれば幸いです。それでは早速行きましょう!!
新人の思い込み
人は誰しも、「こうに違いない」と思い込んでしまう瞬間があります。経験や勘を頼りに判断するのは便利ですが、その一方で思い込みが誤った判断につながることも少なくありません。心理学では、こうした心のクセを「バイアス」と呼びます。代表的なバイアスで言えば「確証バイアス」が有名です。自分の考えを裏づける情報ばかり集め、反対の事実は無視してしまう現象です。
また他にも「アンカリング効果」などがあります。これは、最初に得た知識や印象が強い基準となり、その後の判断を大きな影響をもたらすというものです。例えば、社内で学んだ設計ルールや先輩に教えてもらったノウハウを絶対視してしまい、それが「本当にあっているかどうか」を調べずに盲信してしまったりします。さらに「正常性バイアス」と呼ばれる傾向もあります。これは「これまで大丈夫だったから今回も大丈夫だろう」と考え、リスクを過小評価してしまう心理です。
こうした思い込みは特別なことではなく、誰にでも自然に起こる心の働きです。ただし、そのまま放置すると間違えたまま、仕事を進め、いつか重大な事故が起こる可能性もあります。だからこそ「自分の考えは本当に正しいのか」「別の見方はないか」と立ち止まって確かめることが大切です。特に新人は「生まれたての雛鳥が初めて見たものを親だと思い込む」が如く、初めて知ったことや自分で気がついたことを設計の常識だと思い込む節があります。常識を疑うという意識の積み重ねが、失敗を防ぎ、より確かな成果につながっていくのです。
新人が陥りがちな思い込み3選
新人が陥りがちな思い込みを3つ、ピックアップして紹介します。自分自身が勘違いしていないか、また後輩や部下が同じような思い込みをしていないか、是非ともチェックしてみてください。
思い込み1:ねじはせん断力を受けられる
例えば、ねじ2本で締結されている下図のような状態の部品があったとしましょう。矢印の方向から力を受けています。
この図を見て「これは良くないねじ使い方だなぁ」と思えるかどうかが重要です。この使い方で問題ないと思い込んでいる新人は少なくないです。この締結は絶対にやっていけない使い方の一つです。なぜならば、ねじは引張方向の力には強いのですが、「せん断力」と呼ばれる横から挟み込むような力にはめっぽう弱いのです。
ねじによって部品は押さえつけられているので、部品同士の面には摩擦力が発生しています。せん断力も摩擦力の範囲であれば理論上は受けることはできますが、その範囲を超えた瞬間、ねじそのものにせん断力が掛かってしまいます。そうなれば破断までは秒読みです。原則として、ねじにはせん断力を伝えてはいけません。であるので、摩擦に頼らずに機械的にせん断力を受ける形に設計する必要があります。例えば、下図のようにピンを使って荷重を受けたり、段差を使って荷重を受けたりする方法があります。
これ以外にも色々と方法はありますが、とにかく「ねじがせん断力を受けることになっていないか」という視点で自分自身の設計を見直してみましょう。またそういった使い方をしていい、と思い込んでいた方はその常識をここでブラッシュアップしてください。
思い込み2:ばね座金を入れていれば緩まない
ばね座金はスプリングワッシャとも呼ばれ、通常の座金の一部が切り欠かれていて、更にねじられたような複雑な形をした座金です。名前の通り、ばねの一部を切り取ったような形をしています。ボルト締結面にばね座金を挟むことで、ボルトの締付力にプラスして、ばね座金が元の形に戻ろうとする弾性力がプラスされます。**この弾性力によって、ボルトが緩みにくくなるという部品です。**また、ばね座金の切り欠きの部分が着座面に食い込むことで、物理的に緩みを抑制する効果があるとも言われています。身近な所だと、車のナンバープレートの締結部分なんかに使われていますね。是非、車に乗る際にチェックしてみてください。
安価な緩み止めとして確固たる地位を築いてきた「ばね座金」ですが、実は緩み止めの効果はさほど期待できません。せいぜい、緩んだねじが脱落するまでの時間を若干稼ぐことができるか否か・・・その程度のおまじないの代物です。盲目的に「ばね座金信仰」が製造業には蔓延っていますが、緩み止めとしての効果は期待できないことはしっかり理解しておきましょう。このばね座金に関する話をすると、必ず『いや、ばね座金は経験上、緩み止めの効果があるぞぉ』という経験則を持ち出す方が一定数見受けられますが、この話は既に研究として科学的に結論が出ているものです。経験則による議論の余地なし、素直に思い込みを認めましょう。
【論文リンク】
https://www.fml.t.u-tokyo.ac.jp/~izumi/papers/Spring_washer070326.pdf
https://www.fml.t.u-tokyo.ac.jp/~izumi/papers/EFA16(2009)pp1510-1519.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmemecj/2017/0/2017_S1130204/_pdf
ただし、だからといってばね座金の存在そのものを否定するわけではありません。緩んだねじに気が付くまでの時間を稼いだり、組立・分解の作業性が向上したりとばね座金を使う理由は色々とあります。思い込みのまま「緩み止め」として使うのではなく、正しく意図を持ってばね座金を配置しましょう。
思い込み3:ねじのサイズが同じなら強度は全て一緒
ねじには決まったサイズの規格がありますね。例えば、M5、M6、M8・・・etc。ねじの強度は大きさで決まりますから、ではM6のねじだった場合、全部のねじが同じ強度なのか・・・といったら、当然そんなことはありません。が、「ねじのサイズが同じなら強度は全て同じ」と勘違いしている新人も、また少なくありません。ネジの強度を表す重要な指標として「強度区分」という規格があります。これはJIS規格で定められているもので、ねじの強度を示す指標になります。強度区分、どこを見ればわかるのかと言えば、実はねじの頭に強度区分は書いてあります
数字は左側が引張強さ、右側が引張強さの何%が降伏点かを示しています。例えば、強度区分が10.9であれば、そのネジの引張強さは1000Mpa[N/mm2]であり、降伏点は1000Mpa x 0.9 で900Mpaです。降伏点を超えると塑性変形(元には戻らない変形)が起こりますから、このねじにかかる力は900Mpaを超えないように上手く設計する必要があります。これが強度区分の表記の意味です。つまり、同じM6サイズのねじであったとしても、強度区分が違えばそのねじの強度は全く異なります。基本的に、ねじの強度区分はねじの用途によって使い分けます。ねじを取り扱う上で極めて重要な規格です。ねじのサイズの規格と違い、強度区分を知らなくても形としての設計はできてしまいます。会社によっては、社内で使用するねじの規格が統一されており、設計者が強度区分を意識しなくても設計できる環境である場合もあります(実際にはそういう場合の方が多いです)。こういった整った環境が逆に「思い込み」を生むこともありますので、是非とも実際のねじを見た時に強度区分を確認してみてください。
まとめ
アメリカの自己啓発作家・講師であり、「人間関係の大家」とも呼ばれるデールカーネギー氏の言葉にこんなものがあります。
「人は事実によって動かされるのではない。自分が事実だと信じるものによって動かされる。」
技術の仕事も同じです。技術者は事実だと信じるものによって設計をしています。大切なのは、自分が事実だと信じるものは、本当に事実なのか、それを疑う機会を作ることです。技術者を取り巻くバイアスは様々あります、会社の風土からその分野の常識、そして自分が元々持っていた思い込み。本記事が、少しでもあなたの「思い込み」を考えるきっかけになれば幸いです。