目次
モノづくり企業の3つの重要部門
「設計」「生産」「調達」の機能を持つ3部門は、モノづくりにおいて特に重要な位置にあります。
設計は、製品開発において最初の意思決定をする部門であり、ここでの活動で製品のコンセプトが決まります。
生産は、原材料を加工したり、製品を組み立てたりする部門であり、ここでの活動で製品の品質が決まります。
調達は、原材料や部品の購入先を決定する部門であり、ここでの活動で製品のコストが決まります。
当社のような部品のサプライヤーは、これら3部門に対し、価値を提供することで初めて受注出来ると考えて間違いありません。
そうすることで、モノづくり企業(ここでは、ねじユーザーのことです)の作る製品の価値が向上に寄与することが出来ます。
価値を向上させる
今さら言うまでもないことではありますが、価値の向上とは主にふたつの段階があります。
まずは、新製品の企画開発や設計段階で機能(品質)の向上、コストの抑制を目指すもの。
これを、価値工学(VE:Value Engineering)といいます。
次に、既存の製品に対して、機能(品質)の向上もしくは維持、コスト削減を目指すもの。
これを、価値分析(VA:Value Analysis)といいます。
機能(品質)の向上や維持とコスト削減の組み合わせを考慮する上で、組み合わせとしては主に以下のものがあります。
・機能(品質)は向上、コストは抑制もしくは削減 ⇒ もっとも理想的
・機能(品質)は向上、コストは維持 ⇒ 機能重視型
・機能(品質)は維持、コストは抑制もしくは削減 ⇒ コスト重視型
もちろん、機能や品質の向上や維持、コストの抑制や削減、維持において「どの程度まで求めるのか」も重要であることは言うまでもありません。
機能や品質が向上するのがほんの僅かだったり、コストの抑制もしくは削減が僅かだったりすると、わざわざ設計変更(デザインレビュー、いわゆるDRで、設計の評価や審査をすること)や工程変更(いわゆる4M変更で、Man:人、Machine:機械、Material:材料、Method:方法という4つの要素の変更を検討すること)をするまでもない、ということになります。
そのため部品サプライヤーとしては、モノづくり企業に対して価値を可視化する必要があります。
つまり評価試験などを行なった上で、機能(品質)はどのように変化するのか、コストはどの程度削減出来るのか、リードタイムは何日短縮出来るのか、を提示しなければなりません。
事例 いろんな角度からのVA提案
ワークの概要
ある産業用ロボットメーカーでは、搭載する画像認識ユニットの部品を六角穴付きボルトで固定しています。
ボルトの仕様は以下の通りです。
・材質・・・SCM435
・強度区分・・・10.9
・表面処理・・・表面処理R(仮称)、光吸収性が高いメッキ
・形状・・・頭部径と頭部高さがJIS規格より大きい
・サイズ・・・M4x10
・製造方法・・・切削加工
・月の使用量・・・5,000本前後
ロボットメーカーからの要望
従来は、当社以外の部品サプライヤーが製作し、ねじユーザーである産業用ロボットメーカーへ納入していました。
使用量が増えるに伴い部品コストの見直しをすることになり、仕様変更を前提としたコストダウンのアイデアが無いか、当社へ依頼が来ました。
このメーカーからの要求事項でもっとも重要なものは、「光吸収性が高いメッキを施す」ということでした。
光吸収性が低下すると、画像処理をする際に誤った認識をする懸念があるためです。
ところが、従来のメッキは性能(つまりここでは光吸収性が高いこと)には問題はないものの、処理代がかなりの高額のため、部品原価を押し上げていたようです。
さらに前述の通り、ボルトは頭部径と頭部高さがJIS規格より大きいため、従来のサプライヤーは切削加工(材料を削って決められた形状にする加工方法)で製作していました。
切削加工は加工に要する時間が長く、電力消費も多くなります。
また材料を削るため、材料の廃棄ロスが発生します。
これも部品原価を押し上げる要因になっていたと想像できます。
ねじは、圧造や転造といった塑性加工(金型を利用して、材料に力を加え変形させる加工方法)がもっとも速くて効率よく、安価で製造できます。
材料の廃棄ロスもほとんど発生しません。
今回のVA提案のステップ
①表面処理の代替品を選定
ねじユーザーからの要望にもある通り、最優先で検討しなければならないのは「光吸収性のある表面処理の選定」であることは言うまでもありません。
光吸収性の測定方法のひとつに、「グレイスケール」があります。
白色から黒色までを256段階で濃淡を表現する方法です。
光吸収性が良いということは、黒色に近く光沢も少ない状態、ということになります。
ねじに利用される黒色系のメッキは、黒色三価クロメート(通称:三価ブラック)や黒色ニッケルなど何種類かあります。
今回評価用に試作したのは、上記以外に合計4種類。
この時点で使用するボルトは、一般流通品の六角穴付きボルトM4x10です。
理由は、現行品が特殊形状のため別途特注する必要があり、今回の試作目的は光吸収性の確認のみだったためです。
結果、このうち最も評価が高かったのは、表面処理S(仮称)となりました。
試験方法は、ねじユーザーにて非公表で行ない当社にはOK・NG判定のみ通知でしたが、おそらく実際の画像処理の環境にて光の反射度合いを撮影した画像を使用したと考えられます。
コスト面においては、具体的な数値はお伝え出来ませんが、かなりのメリットが出ることが明らかになりました。
②他の要素への影響が無いか
ところが、光吸収性において評価が高かった表面処理S(仮称)は、ステンレス鋼のみに利用される表面処理で、従来の材質であるSCM435には処理は不可能です。
そのため、ステンレス鋼への材質変更が必要となります。
ねじの仕様変更において、何かを変更すると、他のどこかに影響を及ぼすことが少なからずあります。
例えば、さらに強い締付けをするために、ボルトの強度区分を10.9から12.9に上げたいとします。
この時、三価クロメートを施しているボルトなら、表面処理を変更しなければなりません。
なぜなら、水素脆化による遅れ破壊の懸念があるからです。
遅れ破壊とは、メッキ工程にある酸洗いで鋼が水素を吸収して内部に空洞ができ、強度が低下するという現象で、これにより突然ボルトが破断することがあります。
これを「遅れ破壊」といい、これが起きるとボルト締結体の破壊につながるので非常に危険です。
また、強度区分10.9のボルトで、耐食性を向上させたいとします。
材質をステンレス鋼に変更する選択肢がありますが、強度区分はA2-50やA2-70となり、強度不足になります。
そのため、ねじサイズを大きくするといった方法が取られることがあります。
ねじのサイズアップを敬遠するなら、JIS規格外になるものの市販化されているA2-100のボルトを使うという選択肢もあります。
このように何かを変更すると、他のどこかに影響を及ぼす可能性があることを事前に考慮する必要があります。
そうしないと、ねじの試作や量産後に問題が発生したり、最悪の場合ねじ選定を最初からやり直し、などということになりかねません。
必要かつ重要なステップであり、案外と見落としがちなステップです。
では、「何か」とは、いわゆるねじの基本情報ですが、以下の8項目があります。
①ねじ形状・・・ボルト・小ねじ、タッピンねじ、等
②頭部形状・・・なべ頭、トラス頭、皿頭、六角頭、等
③リセス形状・・・十字穴、六角穴、ヘキサロビューラ、等
④規格・・・JIS、ISO、DIN、等
⑤素材・熱処理・・・鋼、ステンレス鋼、焼入れ、調質、等
⑥表面処理・・・三価クロメートめっき、ニッケルめっき、黒染め、等
⑦強度区分・・・4.8、10.9、12.9、A2-50、A2-70、A4-70、等
⑧サイズ・・・ねじ径(メトリック、インチ)、首下長さ(メトリック、インチ)、ねじピッチ(メトリック、1インチあたりのねじ山数)、等
どのねじも、これら8項目で構成されています。
今回は、ステンレス鋼専用の表面処理が最有力候補となったため、材料変更が必要となります。
ただ、オーステナイト系ステンレス鋼でJIS規格品なら、A2-70やA4-70で強度不足になるため、他の鋼種を選定しなければなりません。
選定にあたり、以下の候補が考えれらます。
①高強度のオーステナイト系ステンレス鋼(A2-100など)
②析出硬化系ステンレス鋼(SUS630)
③マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410)
まず、①については、当時は材料の流通が無く、別途に製鋼すると材料自体の製造ロットがかなり多くなるため現実的ではありませんでした。
②は熱処理によって必要な強度を満たせますが、材料自体が高価で、かつねじ用としての材料の流通も少ないため、そのぶんが製品価格に反映されます。
残るは③ですが、こちらは材料価格も安価であり、ステンレス鋼製ドリルねじに利用されているため流通性もあります。
さらにクロム系ステンレスのため、特殊な頭部形状であっても塑性加工がしやすい。
ということで、この時点ではボルトの材料としては最適と判断しました。
念のため、熱処理による脱炭(熱処理の際に、鋼に含有される炭素が酸素と結びついて、炭素含有量が低下すること。これにより強度低下が起こる。)の影響を少なくするため、真空の環境下での熱処理を選定しました。
③他にVA提案の要素は無いか
前述の通り、従来のサプライヤーは切削加工でこのボルトを製作していました。
条件にもよりますが切削加工ではコスト的に不利、つまり高額となるため可能なら圧造や転造といった塑性加工に変更することが理想です。
ボルトの仕様にもあるように、頭部径と頭部高さがJIS規格より大きい形状のため、塑性加工で製作するためには、ボルトメーカーが持つ金型技術が不可欠となります。
その技術が十分でないと、ボルト頭部割れや金型の破損が発生します。
技術流出を防ぐため詳細は申し上げられませんが、金型の形状にある工夫を加えることで、特殊な形状であっても塑性加工は可能となります。
もちろん、製造ロットもコストに影響します。
特に塑性加工の場合、製造ロットが多いほどボルトは安価になります。
何故かというと、塑性加工に使用する金型は製作するボルトが100本でも10万本でも必要となり、金型の費用は別途必要となるからです。
また、圧造や転造する際に金型の段取り替えにかなりの時間(=人件費等)を要します。
金型の数や種類にもよりますが、長いもので半日を要するということもあります。
さらには量産前の試し打ちも必要で、これにもある程度の時間(=人件費等)を要します。
これらの費用をボルトの数量に案分して加算されるため、多ければ多いほど1本あたりに加算される金額が少なくなる、つまり安価になるということです。
今回の場合、月の使用量の3ヵ月分を製造ロットの目安にしました。
そのため、一時的に当社でのストック期間が発生します。
④コストとリードタイムの提示
今回の事例は、既存の製品に対して機能(品質)の向上もしくは維持、コスト削減を目指すものであるため、比較対象は現行サプライヤーのコストとリードタイムとなります。
経験則ではありますが、コストに関しては30%程度のメリットがあってはじめて設計変更や工程変更への動機づけが起こるように思えます。
もちろん、それぞれの時期や状況にもよることは言うまでもありません。
では、実際どの程度のコストとリードタイムを提示出来たかというと、まずコストについては、表面処理R(仮称)から表面処理S(仮称)への変更に伴うもの、切削加工から塑性加工への製法転換に伴うもの、製造ロットを増やしたことに伴うものが大きな要因になり、実際の数値は非公表になりますが、かなりのメリットが出せたのではないかと考えます。
次に、リードタイムについては前述の通り、月の使用量の3ヵ月分を製造ロットとし、一時的にストックするため、初回納入は1.5ヵ月程度掛かるものの、その後は数日程度で納入可能となります。
現行サプライヤーはどのように運用していたか不明ですが、受注後の製造着手であれば熱処理や表面処理を含めると、20日間程度の生産リードタイムが掛かっていると想定出来ます。
これらの結果、コストおよびリードタイムは、ねじユーザーの希望を満たしたものとなりました。
⑤現行品と同じ形状での試作、および品質の確認
前述の通り、表面処理の選定段階では一般流通品の六角穴付きボルトを利用しました。
ただ、現行品と同じ形状での試作に加え、材料や熱処理の変更による機械的性質の確認は必要です。
変更点をおさらいすると、材料はSCM435からSUS410へ、熱処理は大気焼入れ焼き戻しから真空焼入れ焼き戻しへの変更です。
まず、今回は切削加工から塑性加工への製法転換のため、ボルト各部の寸法および許容差の確認が必要となります。
もちろん、この段階から専用金型の製作に着手することになります。
次に、材料や熱処理の変更による引張り強さの確認が必要となります。
特に引張り強さについては、ボルトの機械的性質でもっとも重要な要素です。
どのように測定するかというと、試験機は万能試験機といわれるものを利用します。
ボルトの頭部とねじ部を試験機で掴んで、上下方向にボルトが破断するまで引っ張り、破断した応力が引張強さとなります。
強度区分10.9であれば、1,000Mpa(メガパスカル)が最低条件となります。
結果としては、塑性加工に製法転換してもボルト各部の寸法および許容差は合格、引張り強さも強度区分10.9を満たすものとなりました。
まとめ
①~⑤のステップを経て、正式に採用となりました。
今回のVA提案の過程において、変更点をまとめると以下のようになります。
・材質・・・SCM435 ⇒ SUS410
・熱処理・・・大気焼入れ焼き戻し ⇒ 真空焼入れ焼き戻し
・強度区分・・・変更なし(10.9のまま)
・表面処理・・・表面処理R(仮称) ⇒ 表面処理S(仮称)
・製造方法・・・切削加工 ⇒ 圧造&転造(塑性加工)
部品サプライヤーとしては、VA・VEともに、モノづくり企業の3つの重要部門(設計・生産・調達)に対して価値の向上となる提案をしなければなりません。
今回の事例では、設計部門に対しては、機能(品質)は維持となったものの、大幅なコストダウンやリードタイム短縮と多くの価値を提供出来ました。
そのために必要となるのが、ねじ部や材質、強度など、ねじの8つの基本情報を理解するだけではなく、それぞれがどのように関係しているのかを意識する必要があります。
その上で、いろんな角度からVA・VEにつながる要素は無いかを検討する。
さらには必要に応じて適切な評価試験をすることで、設計変更や工程変更をする場合にも安心して取り組むことが出来ます。
あとがきにかえて
これまで5回にわたり、ねじのトラブル事例をご紹介しました。
決められた通りに作業しているにもかかわらず、きちんとねじが締まらない。
製品の運搬中や稼働中にねじがゆるんで脱落した、ボルトが折れた。
ねじ締め作業の工数を減らして、効率よく組立したい。
ボルトの材質を変更したので、強度を確認したい、等々。
これらは実際、イケキンにご相談いただいたトラブルや課題です。
解決するためには、適切な評価試験をする必要があります。
ところが、実際にはどのような評価試験を実施すれば良いのか分からない、といったねじユーザーは少なくありません。
極端な例では、まったく見当違いの意味の無い評価試験をしようとしてしまうねじユーザーがおられることも事実です。
試験内容は、ねじの種類や相手母材、製品の大きさ、どのような環境で使用するのか等、条件によって異なります。
イケキンでは、長年培ってきた経験を元に、適切な評価試験をご案内し、その上で最適なねじ締結をご提案致します。
まずは、お気軽にご相談ください。