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技術コラム

ねじ締結体設計のよくある失敗例と改善策|ねじのあるあるトラブル(初級編)

2025.12.10
ねじのあるあるトラブル

初めまして。ものづくりが大好きな元エンジニア、伏見みうです。
ものづくりに欠かせない小さな部品、「ねじ」。ねじは締結する部品の使用環境に合わせて種類・形状・素材などを適切に選び、かつ「ねじ締結を前提とした部品設計」が求められます。しかし実際には、他の機構優先で「ねじについて考えるのは後回し」になってしまうことも多いのではないでしょうか。
図面上では問題がないのに、組立現場で初めてトラブルが発覚する…。ねじ設計では、そのような見落としが珍しくありません。工具の入り方、作業姿勢、締結順序まで想定し、現場とすり合わせて設計することが、品質とコストの両立につながります。
私自身も実際に、ねじ締結体の設計の落とし穴に悩まされてきました。今回はその経験をもとに、初心者がつまずきやすいポイントを整理し、よくあるミスとその対策について紹介しましょう。

1.ねじを締結する作業スペースが足りない

設計初心者がよく経験するミスのひとつが、「CAD設計では問題がなかったのに、実際の締結作業になると工具が入らない」というトラブルではないでしょうか。
製品設計では部品の干渉や強度検討が優先されがちで、つい工具を使った作業スペースの配慮が後回しになってしまいます。
私自身も学生時代にものづくりを始めた頃、最初にやらかした失敗がまさにこれでした。
以下に「あるある」な失敗例を幾つか紹介します。

• 片方のねじを締めると、隣のねじや部品と干渉して工具が差し込めない
• ナット側を保持しながら締めたいのに、保持スペースが確保されていない
• 想定していた締結工具と実際に使う締結工具が異なり、作業スペースがない
• 狭い作業スペースに無理に工具を入れて作業した結果、ねじ穴が「なめる」などの不具合が発生する

最後の「ねじがなめる」という現象は、ねじ頭部のプラス・マイナス・六角などの溝(リセス)や角が削れたり、変形して工具がかからなくなる状態を指します。
これは過大な力を加えて締結した場合、特に工具が斜めに当たった状態で無理やり締結した場合に起こりやすく、結果として再締結や分解が困難になる厄介な問題です。
このような問題は初心者だけでなく、経験者でも意外としてしまう「あるある」な失敗例です。作業スペースの確保は一見ささやかな配慮のようでいて、品質やメンテナンス性、さらには現場の作業効率にも大きな影響を与ええるので、設計段階で早めに意識しておくことがトラブルの未然防止につながります。

実際私も設計に慣れた頃でさえ、スパナや六角レンチは入るのに、「最後のトルク管理をしようとしたらトルクレンチが入らない」という事態に遭遇しました。
ものづくりの現場では作業内容や管理方法、管理するトルクの値によっては最初からトルクレンチで締結する場合もありまがすが、トルクレンチで最終締めをする前に「ボルトの噛み合わせ調整」「ねじ山の入りの確認」といった工程や、ボルト頭の座面部分が部材に当たるまでの仮締め工程においてスパナやレンチを使うことがあります。
これは、他の工具で仮締めすることでトルクレンチに内部機構に無理な負荷がかかって精度低下や寿命短縮になることを防ぐためです。
この最終締めの際に使うトルクレンチは他の工具より一回りサイズが大きく、使用姿勢の制約もあるため、このことを考慮できていないと「トルクレンチが入らない」「作業スペースがない」という事態に陥ってしまうんです…

この時はプライベートでのものづくりであったこと、負荷が大きくかかるところではない箇所であったことから、やむなく「手ルク*」で対応し、ねじがゆるまないようなワイヤリングなどの処置をしたこともありますが、場合によっては設計し直し、製作し直しという事態になることもあり得ます。

*手ルク:トルクレンチを使わず、手の感覚で締付トルクを判断すること。設計どおりの締付ができているかわからないため、トラブルの原因になる可能性が高く、避けるべき。

こうした問題は2D図面では工具の「体積」や「回転軌跡」を想定しづらいこと、CAD上でも「部品同士の干渉」しかチェックしておらず、「工具+手+作業姿勢」を考慮していないことにあります。
これを防ぐには、以下のように設計段階で工具を含めた組立シミュレーションを行うことが必須です。

• 工具の3DモデルをCADに読み込み、工具の回転範囲や手のスペースまで含めて干渉チェック
• 図面に「締結手順」を明示し、干渉が起きない締結順序を指定
• トルクレンチなど大型工具の作業姿勢まで考慮して設計する

これらを組み込むことで、組立現場での「しまった」を大幅に減らすことができます。
また、イケキンでは作業スペースが狭い場所でも締結しやすい「ウルトラ低頭CAP(一般名:極低頭ボルト)」もラインアップに入っています。
強度は通常のボルトより劣るものの、条件が合えば有効な選択肢となり、狭所での締結トラブル回避に役立ちます。
せっかく時間をかけて設計したのに、製作段階で工具が入らず再設計…という無駄を出さないためにも、「ねじ締結作業を考慮した設計」を意識してみてください。

2.締結方向や作業姿勢を考慮できていない

締結方向や作業姿勢を考慮しない設計は、現場でさまざまな問題を引き起こします。
設計時には意識しにくい部分ですが、例えば組立の場面では次のようなトラブルが実際に頻繁に発生します。

• 上向きや横向きにねじを締めなければならず、作業者に負担がかかる
• 締結時にワッシャーや座金が落下し、作業効率が低下する
• 仮止めができない構造で、作業の難易度と工数が大幅に増える

姿勢のきつさは作業効率の問題に留まらず、作業者の腰痛や怪我といった安全面にも大きく影響します。
ちなみに筆者は20代の頃、愛車を整備している際に狭いスペースに無理やり体を捩じ込んでねじ締結などを含む作業をして、足が攣ってしまったことがあります…。

また、締結時にワッシャーが落ちてしまうという状況は私自身何度も経験があり、これは単なるストレス要因にとどまらず、製品内部への異物混入や部品の入れ忘れにつながる危険性につながります。
こうした問題の根本には、設計段階で現場の姿勢条件や工具の扱いが十分に考慮されていないことがあります。
CADでは重力方向の影響が見えない、ワッシャーや座金、ナットの保持方法を検討しない。
こうした要因が重なり、現場での作業性の悪さとして表面化してしまうのです。
問題を未然に防ぐには、設計段階でいくつかの工夫を取り入れることが有効です。

• 締結方向ごとの設計ガイドラインを整備
上向き締結にならないような作業手順にするなど。
• ワッシャー・座金一体型のボルト採用を検討
通常のボルトよりコストが高くなる場合がありますが、部品点数の削減や作業効率の向上につながり、結果として製造コストの削減に寄与することがあります。
• 仮止めが可能な構造や、ナットを使わず部材側にめねじを設ける設計を検討
仮止めがしやすい構造であれば作業者の負担が減り、姿勢の乱れや部品の落下リスクを低減できます。
また、めねじ化により締結作業が簡素化され、作業ミスの抑制にもつながります。

イケキンでは締結時にワッシャーが落下してしまう問題を解消できる「シーホース六角穴付きフランジボタンボルト(カバー止め用ボルト)」をラインアップしています。
ワッシャーの組込み作業を省略できるため、狭所作業や下向き締結が多い現場では作業効率向上とコスト削減の両面で効果が期待できます。
このような現場トラブルを後追いで解決するのではなく、設計段階から姿勢や重力の影響を意識することで、組立品質と作業性は大きく向上します。
製作時の「辛い姿勢」や「イライラ」を極力減らせるよう、設計時から考慮するようにしてみてください。

3.公差やメンテナンス性を考慮できていなかった

ねじ設計では図面上では問題がなく見えても、実際の組立やメンテナンス段階で予期せぬトラブルが起こることがあります。
その代表例が、公差の積み重ねやメンテナンス性の考慮不足による問題です。
まず、公差に起因するトラブルとして次のようなことがよく起こります。

• 公差の位置ずれが考慮されておらず、ねじ穴が合わずにねじが入らない
• 穴位置のばらつきで、ねじが斜め方向にしか入らない
• 組立許容がなく、わずかなズレで作業が止まってしまう

これらの原因は、組立時に生じる位置ずれを吸収する仕組み(スロット穴*やリードイン形状**)を設計段階で考慮していないことにあります。解決するには、次のような工夫が有効です。
• 公差累積を考慮した設計(またはシミュレーション)をする
• スロット穴やリードイン形状など、ズレを吸収できる構造を設ける
• 締結順序を工夫し、応力や歪みによるズレを抑止する

*スロット穴:円形ではなく、長細い楕円状になったボルト穴のこと。
ボルト位置を前後・左右に微調整できるため、部品同士の寸法誤差や組立誤差を吸収でき、ボルトをまっすぐ立てにくい位置でもスロットの範囲内で調整可能、仮固定して位置合わせして最後に本締めするなど締結順序の自由度が上がるといったメリットがある。

**リードイン形状:ボルト穴の入り口を円錐状に広げることで、ボルトが穴に入りやすくなるよう導く形状のこと。
ボルトがまっすぐ入りやすい、斜めから挿入しても穴側がガイドしてくれるため、ねじ山を傷めにくいといったメリットがある。

もう一つ多いのが、メンテナンス性を軽視した設計によるトラブルです。
組立は問題なくても、分解や点検の段階でねじが外せない、再組み立てできないといった状況が発生します。
典型的な原因としては以下が挙げられます。

• 部品交換や保守作業の流れが設計段階で想定されていない
• 高温・腐食環境で固着する可能性を放置している
• 一度組み立てたら他の部品に干渉するようになり、分解に手間がかかる

これを防ぐには、メンテナンス工程を含めた設計が不可欠です。
• 保守間隔に合わせて、ねじの再利用可否を明示する
• 固着が予想される環境では耐熱グリスや防錆剤を使用する
• 分解時にアクセスできるサービススペースや穴を設ける
こうした配慮を設計段階から組み込むことで、組立時だけでなく、運用や保守を含めた製品全体の品質と信頼性が大きく向上します。
現場で「外れない」「合わない」といった問題に振り回されないためにも、設計時のひと工夫が重要です。

4.まとめ

今回は、設計初心者が陥りやすいねじ設計の「あるある」な失敗例を3つ紹介しました。
ここで挙げたもの以外にも、ねじ締結を前提とした設計を怠ったことで製作段階になって「しまった」と気付くケースは多く、実際にはベテランの設計者もこうした失敗を積み重ねながら経験を得ています。

図面上で配慮するのはもちろんですが、経験者から話を聞くこともとても重要です。
日々の雑談の中で出てくる「あるある」や当時の対処法を聞くことで、自分の設計に活かせるヒントが必ず見つかります。

また、設計に慣れてきた頃にこそ、初心を忘れて思わぬ失敗をしてしまうことがあります。
ねじ締結にまつわる細かな確認を後回しにせず、基本を大切にしながらものづくりに向き合っていただければと思います(自戒を込めて書いています)。

次回は、設計中級者が陥りがちな「あるある」について紹介します。
引き続き読んでいただけると嬉しいです。

筆者プロフィール

伏見みう
元エンジニアのものづくり・工学ライター&記者
技術文章の英日翻訳家

学生時代は高専ロボコン、学生フォーミュラに青春を捧げ、某メーカー企業の研究開発職に6年ほど従事。退職後に北欧デンマークで1年ほど滞在し、趣味のアウトドアを楽しみつつ、現地の風力発電施設やゴミ処理場、農場などを見学していました。帰国後は専門知識を必要とする技術文章の英日翻訳や工学系の記事を執筆することでエンジニア以外の視点からものづくりに関わる道を模索しています。

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