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技術コラム

かゆいところに手が届く!? 締結設計の工夫3選

2025.11.06
設計1年生への基礎知識

どーも、しぶちょーです。

世の中の機械にはさまざまな「締結」が使われています。締結とは、部品と部品を繋げる技術です。どんなに複雑な部品でも、分解していけば細かい部品の組み合わせです。それらの部品が締結されることであらゆる機械は成り立っています。地味ながらも、繋げる技術は非常に重要なのです。そんな締結技術の代表といえば、ねじです。

しかし、締結の設計というのは、ただ強く締まればいいというものではありません。実際にねじを締める人、組み立てる人、そしてメンテナンスをする人がいます。彼らが迷わず、ストレスなく作業できるようにする――そこに設計者としての「思いやり」が表れます。機械の仕様には現れない、ほんの小さな配慮が、現場での効率や品質を大きく変えるのです。

目で見えるものにだけ囚われてはいけません、見えないものを見ようとして3D CADを覗き込みましょう。

       

締結設計には、力学や材料の知識だけでなく、“人への優しさ”が必要です。今日はそんな「締結設計の思いやり」について、具体的な工夫をいくつか紹介していきますよ。それではさっそく、いきましょう。

ねじは何本使われていると思う??

さて、ここで問題です。機械一台につき、何本のねじが使われていると思いますか?

「そんなん、機械によるだろ」と思うかもしれませんが・・・正解です。機械次第で大きく変わります。例えば小さな家電であれば、100本程度かもしれませんし、自動車であれば2000〜3000本だとも言われています。飛行機であれば、それこそ数万の締結部品があるでしょう。具体的な数字はどうでもいいのです。ここで問いたいとは一つ、あなたはあなたが携わった機械に使われているねじの本数を正確に言うことができるでしょうか。

ねじが一つあれば、当然のことながらそれを締め付ける作業が発生しています。そういう視点でねじについて考えたことはあるでしょうか。

ねじが1本あれば、そのぶん締め付け作業があります。100本なら100回、1,000本なら1,000回。

つまり、ねじの数だけ「人の手」が動いているということなんですよね。

これ、当たり前のことなんですが、設計をしているとつい忘れがちなんです。図面の上では、ねじなんてただの小さな丸印。CAD上でも一つの小さな3Dデータにしかすぎません。でもひとつひとつに、作業する人がいて、工具を持って、体をかがめて、時には手を伸ばして締めている。しかも、現場ではそれを一日に何十回、何百回と繰り返すわけです。ねじ1本の位置が少し奥まっているだけで、作業者にとっては地味に大変。毎回ちょっとだけ手を伸ばす――それが積み重なって、最終的には作業効率にも品質にも影響してくるんです。設計者がその「ちょっと大変」に気づけるかどうか。

そこに、設計の優しさ――つまり“思いやり”が出るんだと思います。ねじの位置を少しズラすだけでもいいし、工具がまっすぐ入るようにスペースを確保するだけでもいい。そんな小さな配慮が、作業者の「助かった!」につながります。ものづくりは使う人のためだけでなく、作る人のための工夫も欠かせません。そこまで考慮できる設計者は、実に真摯でカッコいいと思うんですよ。

では、実際にどうすれば“思いやりのある締結設計”ができるのか?次は、現場で「おっ、わかってるな!」と思われるような、かゆいところに手が届く締結設計の工夫を3つ紹介します。

かゆいところに手が届く!? 締結設計の工夫3選

痒い所に手が届く締結設計の工夫を3つ、ピックアップして紹介します。自分の設計にも落とし込める部分がるか、是非とも想像しながら読み進めてください。

工夫1:決まった向きにしか取りつかない設計

プラモデルなど作ったことがある方なら、このような経験をしたことあるのではないでしょうか。組立が進み、工程の終盤に

『あっ、この部品・・・逆向きにつけちゃってたわ』

と気が付いて、もう一度分解して組み直すということ。簡単に外れる部品ならまだしも、全部をバラバラにしなければ修正できないこともあって、げんなりしますよね。私はよく経験します。説明書をしっかり読め、という話ですが、これは設計側の問題でもあります。

間違った向きに組めてしまう

という構造自体に問題があるのです。プラモデルに限らず、製造業の現場でもどの向きにも付いてしまう部品って、意外と多いんですよね。

このように「間違える可能性」を残している設計は親切とは言えません。決まった向きにしかとりつかない工夫が必要です。例え、向きの関係ない部品だったとしても、迷わない設計は必要です。図面上では「どっち向きでもOK」だとしても、現場で組み立てる人からすると「この向きで合ってるのかな?」と一瞬迷うんです。たった数秒の迷いでも、それが何十台・何百台分の作業になると大きなロスになりますし、なにより心理的にストレスがかります。作業者を迷わせてはいけません。それは不親切な設計であり、数値に現れない見えないコストとなります。

だからこそ、「決まった向きにしか取り付かない」ように設計しておくのが親切です。最も簡単にできる対策は、取付穴のピッチを左右で少しだけ変えておくことです。こうしておけば、作業者は部品を手に取った瞬間に「この向きだな」と自然に判断できます。まさに“考えなくても正しい組み立てができる”設計です。

これは単なる作業効率化ではなく、ポカを未然に防ぐ設計――いわゆる「ポカよけ設計」です。現場で起きるミスの多くは「間違えた」ではなく「迷った」ことが原因。その“迷い”を設計段階で潰しておくことこそ、優しい設計の第一歩です。

工夫2:落ちない・無くならない締結設計

作業者が絶望する瞬間トップ3に君臨するシーン、それはボルトや工具の落下です。現場に行くと、時々聞こえるんですよね——

「あっ、カラン……カラン……(絶望)」

ボルトを手から滑らせて、どこか見えない隙間に転がっていったときの、あの音。頼む・・・すぐに見つかってくれと願いながら、恐る恐る機械の中を覗き込み、懐中電灯で照らす。そこにボルトの姿はない。そこからはボルト探しの時間、いつでも探しています、どこかにボルトの姿を。向かいのホーム、路地裏の窓、そんなところにあるはずもないのに。

作業中にボルトやワッシャを落としてしまうのは、単なる不注意だけではなく、設計に不備がある場合も多いです。

たとえば——

  • 片手で部品を支えながら、もう片手でボルトを入れる構造
  • ワッシャがすぐ外れて転げ落ちる
  • ナットが奥まっていて、指先でやっと届く

こういう構造って、「落ちないように頑張る前提」で設計されてるんですよね。でも、現場はいつも汗と油と重力が敵。現場のスキルではなく、誰がやっても“落ちない設計”に変える。そこに設計者の思いやりが出ます。

例えば、キャプティブボルトや脱落防止ワッシャーの活用。ボルトが部品から抜け落ちないよう、ワッシャや樹脂座で保持しておく設計です。部品を外しても、ボルトはその場に“ぶら下がったまま”なので、落ちる心配がないので、再組立もスムーズです。組立性だけでなくメンテナンス性も向上します。

部品側での工夫としては、手放しできる仮の保持機構が必要です。片手で部品を支えながら、もう片手でボルトをねじ込む。これは作業者にとって地味にきつい動作。そんなときは仮保持できる”設計”が効果的です。部品側に引っかかりが付いていて、部品を抑えていなくても締結作業だけに集中できる工夫です。

たとえ一瞬でも手を離せると、作業の安心感がまるで違います。現場では「手がもう一本ほしい」が口癖ですが、設計でその“一本分の腕”を生み出せたら最高ですよね。

工夫3:ねじのサイズと長さの統一

現場の作業で意外と迷うのがねじの長さです。サイズは一目瞭然だし、そもそもサイズが合わなければねじをとりつけることはできません。一方でねじ穴の深さはぱっと見ではわからず、現場では作業指示書や組立図を見ながら、適切な長さのねじを選んで締めていきます。間違ったねじの長さを選んでしまうと、ねじの掛かりが浅くて締付時にねじ穴をダメにしてしまったり、逆に長すぎる場合はねじが底付きして正しく締結できません。

しかし、選択肢があるところにはミスは発生するものです。「このねじ、どの長さだったっけ?」そんな迷いが一つでもあると、組み立て効率も品質も落ちてしまいます。設計段階でネジの種類や統一しておくことで、現場作業・メンテナンス・購買コスト、あらゆる負担を減らせます。

もちろん設計上必要なねじ長さがあるため、全てを統一するのは難しいでしょう。一つの部品の締結で、違う長さのねじが混在しないように工夫するだけでも間違いを減らすことができます。使うねじの種類を減らす、という意識で自分の設計を見直してみましょう。これも見えないところで発揮される“設計者の思いやり”です。

まとめ

ハードボイルド小説の代表的な作家であるレイモンド・チャンドラーの小説『プレイバック』に出てくる、私立探偵フィリップ・マーロウの有名なセリフにこのような言葉があります。

「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」

これは技術の仕事にも転用できる言葉だと感じます。設計者も同じで

「強くなければ設計できない。優しくなければ設計をしていく資格がない」

のです。私は新人の時、設計者たるもの真摯であれと教えられました。技術の仕事は未知との戦いで、理不尽な要求も日常茶飯事です。そんな中でも、作る人、使い人を思って、形を思い描き続けることができるか。これこそ設計者の一つの力量だと思います。ものづくりは人を想ってなんぼなのです。設計者でいつづけられるかは、人に優しくあり続けられるか、これと同義です。千里の道も一歩から、まずは目の前のねじ一本、締結一つから優しくありましょう。それが、設計者として生きてくための第一歩です。

筆者プロフィール

しぶちょー
「しぶちょー技術研究所」サイト運営者

技術士(機械部門)。
機械メーカーに勤める現役の技術者。
機械設計担当として産業機械の新製品開発に従事し、現在はAI・IoTを用いた新機能開発を担当。
個人活動としてモノづくり技術に関する情報発信を行っており、技術ブログ(しぶちょー技術研究所)・音声配信(Podcast:ものづくりnoラジオ/Voicy:ものづくりnoシテン)・SNSなどで幅広く活躍。専門家でなくても楽しめるわかりやすい解説で人気。

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