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技術コラム

ねじの基礎≪10≫ ねじの強度区分

2025.09.22
ねじの基礎

ねじを選ぶ際、重要な項目の一つに「強度区分」があります。使用用途や環境によって適切な強度のものを選ぶ、と言えばその通りなのですが、一言で「強度」と言っても考慮すべき点が多く、その選定や判断はなかなか難しいと感じる事が多いのでは無いでしょうか。
今回はねじの強度区分について説明する中で、「そもそも強度とは何か」についても解説していきましょう。

1. 強度とは

ねじの強度区分について説明する前に、まずは「強度とは何か」について理解する必要があります。
「強度」とは、材料が外部からの力(荷重・応力)に対して壊れずに耐える能力のことを言いますが、どのような力に対して耐えるかで性質が分かれます。
「引っ張る力に強い」「衝撃に強い」「繰り返し荷重に強い」といったように、強度は力の種類や使用条件によって意味合いが異なります。
ここでは強度を理解するうえで、基本となる代表的な材料の機械的性質について整理していきましょう。

引張強さ(Tensile Strength)

材料を引っ張ったときに最終的に破断する最大応力。
破断した荷重を断面積で割った値で表すので、単位は [MPa](メガパスカル)。
構造材料の強さを表す代表値。

耐力(Yield Strength)

材料に荷重を与えた時、弾性変形*から塑性変形**に移る境界の応力のこと
「降伏点」とも呼ばれ、材料の種類やボルトの強度によっては0.2%耐力とも言う。
実用設計では「破断」よりも「変形を許容できるか」が重要なので、耐力を基準に安全率を決めることが多い。

*弾性変形:荷重を加えると変形するが、荷重を取り除くと元に戻る変形のこと
**塑性変形:荷重を取り除いても元の形に戻らず、変形したままになること

硬さ(Hardness)

材料表面が「へこみ」「傷」「摩耗」にどれだけ抵抗できるかを示す性質。
静的な押し込み試験(ブリネル硬さ、ビッカース硬さ、ロックウェル硬さなど)や、動的な反発硬さ試験で評価。

せん断強さ(Shear Strength)

材料を「切ろう」とする力(せん断力)に対して破壊される強さ。
せん断応力 = 力 / 断面積 で表される。

衝撃強さ(Impact Strength)

急激な荷重(衝撃)に対して破壊されにくい性質。
シャルピー衝撃試験やアイゾット試験で測定。
特に低温では金属の靭性が低下して脆くなる(延性‐脆性遷移温度が重要)。

疲労強さ(Fatigue Strength)

小さな応力でも繰り返し荷重を受けると、次第に亀裂が発生・進展して破壊に至る。
このときの繰返し応力の限界を「疲労強さ」という。
機械や構造物で最も重要な強度のひとつ。

このように、一言で「強度」と言ってもいくつかの種類があります。
例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、「軽くて強い」という特性を活かして飛行機やヘリコプターの羽、風車のブレードなどに使われています。
ここでいう「強い」とは、「繊維方向への引張強度が非常に高く金属に匹敵する」ということで、「繊維を横切るせん断方向には弱い」ので注意が必要です。
また、ガラスは硬さがあるものの衝撃強さに弱いので、窓やスマホの画面などは傷つきにくいものの割れやすいと言った特徴があります。
設計者は製品にどのような力がどのようにかかるかを把握した上で、適切な強度の材質を選ぶ必要があります。

2. ねじの強度区分

強度について説明したので、ここではよく使われる鋼製、およびステンレス製のおねじの強度区分について説明しましょう。

鋼製おねじの強度区分

鋼製のおねじはJIS B1051:2014「炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質」で強度区分が定義されており、ねじの強さを数値で表しています。
8.8や10.9という強度区分を見た事がある人も多いのではないでしょうか。
これはねじの引張強さ(小数点より前の数字)、および耐力と引張強さの比(小数点より後の数字)を表しています。

例:強度区分が10.9の場合
引張強さは10×100 = 1000[MPa]
耐力は引張強さの0.9倍→1000×0.9 = 900[MPa] 

表に示した通り、引張強さが同じでも、耐力は異なる場合があります。
引張強さは材料を引っ張ったときに破断するまで耐えられる最大応力で、耐力は料が永久変形(塑性変形)を始める応力のことです。
言い換えると、ボルトの場合は次のようになります。

耐力:ボルトが伸びても元に戻らなくなる荷重
引張強さ:さらに荷重を加えてボルトが破断する時の荷重

実際の設計では引張強さまで荷重がかかることは想定せず、耐力より低い荷重範囲で使用します。
そのため、設計時には弾性変形(元に戻る範囲)と塑性変形(永久変形が始まる範囲)の境界を意識することが重要です。

ステンレス鋼製おねじの強度区分

ステンレス鋼製おねじの強度は、JIS B 1054-1:2013「耐食ステンレス鋼製締結用部品の機械的性質」で規定されています。
ステンレス鋼製おねじの強度は、A2-70のように表されています。
ハイフンの前のアルファベットと数字は「どのタイプのステンレス鋼か」を示す鋼種区分で、ハイフンの後の数字は引張強さの1/10の数字を示しています。

例:強度区分がA2-70の場合
オーステナイト系ステンレス鋼で、SUS304などの材質が使われている
引張強さは70×10 = 700[MPa] 

SUS303などの鋼種について詳しく知りたい方は、「技術コラム ねじの基礎≪9≫ねじの材料」を参照してください。

このように、ねじの強度は「引張強さ」「耐力」を基準に区分されています。
つまり、せん断強さや衝撃強さについては別途考える必要があります。
細いねじの場合は特に、せん断破壊しやすいので注意しましょう。
また、ここで記載されている数値は理論値なので、実際にはボルトの長さや形状、安全率や使用温度など、様々な条件を考慮してください。

3. ねじを選定する際の判断基準

強度を基準にしたねじの選定

これまで技術コラムで、ねじの「熱処理」や「材質」などを紹介してきました。
ねじの選定では、この「熱処理」や「材質」に加えて強度も重要な判断基準となるため、選定が複雑に感じられるかもしれません。
しかし実際には、特別に材質や熱処理の制限がない場合、強度区分を基準に選べば、必要な強度を満たすための材質や表面処理が施されたねじを合理的に選ぶことができます。
つまり、強度区分を理解しておくことで、材質や処理方法を個別に悩むことなく、設計条件に合ったねじを効率的に選定できるようになります。

高強度のものを選べば間違いないのか?

設計を始めたばかりの頃、「強度の選定はよくわからないし、とりあえず高強度のものを選んでおけば間違いないのでは?」と考えた経験がある方も多いのではないでしょうか。
筆者もかつて、そのように考えた事があります。
ねじの強度を基準に選定をするのが合理的であれば、安全を見込んで強度を高めに設定しておけば安心に思えます。
しかし実際には、過剰な強度設定がさまざまな不具合を招くことがあります。
まず大きな影響は、コストです。高強度材料は一般に価格が高く、さらに加工や溶接が難しくなるため業量が増え、製造コストの増大につながります。
また、一般的に強度を上げると製品の重量が増加するので、特に自動車や航空機のように軽量化が性能や燃費に直結する分野ではデメリットとなります。
さらに、強度を上げたからといって必ずしも疲労強度や耐食性が向上するわけではなく、むしろ材料寿命や保守性が悪化する場合さえあります。
このように、強度は「高ければ良い」という単純なものではなく、コスト・重量・加工性・耐久性とのバランスを取って設定することが重要です。
設計における最適な強度とは、必要十分な安全率を確保しながら経済性と信頼性を両立させることにあります。
機械設計においてねじを選定する際は、必要な強度を計算に基づいて明確にし、製品ごとに適切な安全率を考慮したうえで選定することが求められます。
とはいえ、コストと重量の問題をクリアできれば、「高強度のものを選んでおく」ことも判断基準として間違っていないので、困ったときにはそのように選定するのも一つの手段です。

4. まとめ

今回はねじの強度区分を説明する中で、「強度とは何か」「ねじの選定方法」についても詳しく解説しました。
強度と一言に言っても考えなければならない要因は多々あるので、用途や締結部分にどのような荷重がかかるのかなどを考慮して総合的に判断して選定する必要があります。とはいえ、「結局どうすればいいのか分からない」とお悩みも多いのではないでしょうか。
イケキンでは、ねじの専門知識を持つエキスパートが、技術的なご相談に対応しています。強度だけでなく材料の選定や締結方法についても、用途に応じた最適なご提案を丁寧に行っておりますので、お困りの際はぜひお気軽にご相談ください。

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