何を、どうすればいいか、わからない?
ねじだけでは何もできない。
とは言え、なければ何もできない。
誰の言葉か、言い得て妙です。
ねじは、機械や装置の組み立てには必要な部品です。
それが、ゆるんだ!折れた!錆びた!多くの方が一度は痛い目にあっているようです。
トラブルが起きるとどう対処すればいい?
未然に防ぐためには?
これは以外とご存じありません。
これは筆者の経験則です。
池田金属工業(以下、イケキン)の「なるほど!ねじのおもしろ講座 よくあるねじのトラブルとその解決事例編」は、そんな経緯で始めたプログラムです。
これを文字にしてみました。
都合により、一部変更修正を加えていますが、すべて実例が元になっています。
ここで紹介する事例とズバリ同じ事例が起こる可能性は低いですが、似通った事例ならどの会社でも起こる可能性があります。
そのため、検証方法も、対策方法も応用できるものがあるかもしれません。
そういう視点でお読みいただければと思います。
目次
1. 3つのねじの検証方法
イケキンでは、毎年、数多くのねじに関する相談を受けます。
「トラブルが発生した。」
「新規採用したい。」
前者では、選定のプロセスに問題がある場合が多い。
当然、どこに問題があるのかを事後検証する必要があります。
後者では、量産時に問題が起きないようにする必要がある。
そのためには仮説を立てた上で適切な検証をすることが有効です。
検証は主に3種類あります。
①加速試験
実際の使用環境よりも厳しい振動や衝撃、温度変化を加えて、変化や劣化をみる試験です。
その結果をもとに、実際の使用環境に置き換えて、耐久性を推し量ります。
つまり、この条件でこれだけもった、この時点で劣化したのだから、実際にはこれぐらいもつ「だろう」ということを見極められます。
②破壊試験
破壊に至るまで負荷を与えて、どこで、何が、どのように壊れるのか、壊れるまでの時間や壊れ方をみます。
つまり、わざと壊して、その結果をもとに、母材やねじ持つ耐久性の限界を知る試験です。
②締付試験
上記結果をもとに、量産を前提にした条件で締め付けて、トラブルを起こさないかをみます。
重要なのは、量産時と限りなく同じ条件にすること。
ここでトラブルがあると、量産時にもトラブルが発生する可能性は高くなります。
2. ねじは機械要素部品
機械や装置を構成する最小単位のものを機械要素部品といいます。
ねじもその一種で、他にはバネ、ギア、シャフトといったものがあります。
乗用車はおよそ3万点の部品で構成されていて、その内、およそ1割がねじです。(※1)
これが、精密機器や情報機器、家電機器になると2割に迫ります。(※2)
多いと感じるか、少ないと思うかは人それぞれです。
ただ、ねじにまつわるトラブルは多いです。
ただし、使用頻度との因果はわかりません。
(※1)引用元:トコトンやさしいねじの本(日刊工業新聞社)
(※2)引用元:ねじとばねから学ぶ設計者のための機械要素(日刊工業新聞社)
3. どこで何が起きている?
ゆるんだ!折れた!錆びた!は既に書きました。
締付トルクはどうやって決める?
作業時間を短くするには?
部品点数を減らすには?
コストダウンするには?
これらは挙げればキリが無い困りごとです。
ねじは時には厄介者にされることもあります。
しかしながら、組立には必要な部品であることは間違いなく、言い換えると、ねじと上手く付き合うことが出来ればこれほど頼りになる存在はありません。
もう一歩踏み込んでみましょう。
工作機械や産業機械では、折れる、漏れる、脱落する、半導体製造装置では、錆びる、焼き付く、溶け出すという相談が多い気がします。
そう、あくまでも気がする程度です。
ゆるみは共通、これはほぼ核心です。
早く事例紹介を。
そろそろそんな声が挙がりそうです。
4.事例 ボルトのゆるみや脱落
ワークの概要
機械装置の部品を六角穴付きボルトで固定しています。以下はワークの詳細です。
・締結される部材(被締結物)・・・アルミ合金A5000番台
・ボルトの強度区分・・・A2-70
・ねじサイズ・・・M12
・1台あたりボルト本数・・・50本
・設定軸力・・・15kN
・締め付けトルク・・・24.5N.m
・ボルトへの潤滑処理・・・無し
稼働時の振動や衝撃によって、ねじのゆるみが発生しています。
締め付け箇所によっては、ボルトが脱落してしまっています。
ボルトの締め付け方向と振動方向の関係から、ボルトにはせん断荷重が加わっています。
ワークの概要
機械装置を稼働させるために動力を利用すると振動や衝撃の発生は避けられません。
そのため、ボルトには何らかの影響が出ることもあります。
では、どのような影響かというと、せん断方向からの外力によってスベリが発生している可能性があります。
それにより、ボルトが戻り方向に回転することによって軸力が低下します。
後述しますが、いわゆる回転ゆるみです。
箇所によってはボルトの脱落が発生します。
軸力はねじ締結でもっとも重要
ねじの締結方法で最も利用されるのが、トルク法による締め付けです。
トルクとは、ボルトが回転するときにはたらく力の大きさで、かけた力に距離を掛けたものです。
例えば、1メートル(m)の工具先端にボルトを固定し、反対側に1ニュートン(N)の力を与えると、1mx1Nで1N・mのトルクが発生します。
ボルトが相手母材に接地(着座)し、さらにトルクを上げていくと、相手母材からの垂直抗力(※3)により、ねじは伸びていきます。
ただ、伸びは僅かなので、どんなに視力が良くても、人間が目視することは困難です。
ちなみに、以前、M56のボルトを締め付けた際の伸び量を測定すると、0.2㎜程度でした。
では、ねじは伸びるとどうなるのでしょうか。
ばねを伸ばすのと同じです。
伸ばす方向にちからを加えると、同時に元に戻る力が発生します。
それを軸力といいます。
ねじ締結でもっとも重要な要素です。
(※3)ある物体に対して、垂直の方向に力を加えた場合に、それを押し返す力
ねじはなぜゆるむ?
ねじがゆるむ=軸力低下に至る経路は二つあります。
一つ目は、外力>軸力という位置関係で、軸力が外力に負けてしまったからです。
つまり、ある大きさの外力によって、被締結物同士の間や、ボルトやナットの座面で繰り返しのスベリが発生します。
その後、ボルトが締め付けとは逆方向に回転する際に軸力が低下します。
これを、回転ゆるみといい、ねじにおいては致命的なゆるみです。
二つ目は、軸力>締結体の強度という位置関係で、発生している軸力によって被締結物やボルトを壊してしまったからです。
つまり、締め過ぎていて、被締結物の表面を陥没させているとか、ボルトが伸びきって元に戻らなくなっている状態です。
これを、非回転ゆるみといいます。
非回転ゆるみは、温度変化や時間経過によっても発生することがあります。
ねじはなぜゆるむ?
ねじがゆるむ=軸力低下に至る経路は二つあります。
一つ目は、外力>軸力という位置関係で、軸力が外力に負けてしまったからです。
つまり、ある大きさの外力によって、被締結物同士の間や、ボルトやナットの座面で繰り返しのスベリが発生します。
その後、ボルトが締め付けとは逆方向に回転する際に軸力が低下します。
これを、回転ゆるみといい、ねじにおいては致命的なゆるみです。
二つ目は、軸力>締結体の強度という位置関係で、発生している軸力によって被締結物やボルトを壊してしまったからです。
つまり、締め過ぎていて、被締結物の表面を陥没させているとか、ボルトが伸びきって元に戻らなくなっている状態です。
これを、非回転ゆるみといいます。
非回転ゆるみは、温度変化や時間経過によっても発生することがあります。
ボルトはなぜ折れた?
今回の事例に話を戻すと、この機械装置には、せん断方向の荷重が加わり、ねじのゆるみや脱落が発生しています。
ということは、何らかの原因により、軸力が低下した、もしくは設定した軸力が元々出ていなかったと考えられます。
ねじに関わらず、トラブルには、いろんな角度から仮説を立てることが重要なので、原因として考えられることをいくつか列挙します。
①トルク係数(※4)のバラツキにより、軸力にもバラツキが出ていた
②被締結物が全面で接しておらず、片あたりになっていた
③仮締めの後、本締め忘れにより、軸力不足の箇所があった
④部品間でフレッティング(微細な摩擦の繰り返しで摩耗)が発生した
⑤被締結物(アルミ合金)が陥没していた
⑥被締結物のめねじが壊れていた
(※4)締め付けの際のボルトと軸力とトルクの関係を表わした数値で、これの大小によって発生する軸力にも影響が出ます。
対策の一例
①について
これは、被締結物の表面仕上げの程度、使用する工具に起因する締め付けトルクのバラツキ、ボルトの個体差が考えられます。
なので、被締結物については、加工精度の見直し、工具については、こまめにトルク設定を確認する、ということが重要です。
一般流通品である限りボルトの個体差はある程度やむを得ません。
そもそも、ステンレス鋼は摩擦係数が高くなる傾向にあり、そのため、僅かなバラツキでも軸力に影響を及ぼします。
もちろん方法はあります。
潤滑処理をして摩擦係数を安定させることですが、潤滑処理をしても問題の無いワークであることが最低条件になります。
②について
今回のケースでは、ボルトの本数が多いので、締める順番にも注意が必要です。
締め付け最初のほうは特に問題無くても、最後のほうになると何やらねじがカタくて入りにくい、なんてこともあります。
これは、めねじと下穴の位置が少しずつズレていって、累積で大きなズレになっていることがあります。
この場合、下穴の大きさを少し大きくする、対角線上に交互に締める、といった対策が有効です。
ちなみに、ラウンド形状にボルトが配列されている場合、対角線的な順序で締め付けることが推奨されます。
いわゆる千鳥締め付けです。
③について
作業手順の徹底が必要になります。
一般的には、作業完了の確認として、アイマークを付けることが多いです。
工具側で管理する場合、カウンター付きの工具を使用することも有効になります。
④について
被締結物を硬い材料にする、表面処理などで硬くする、等があります。
今回のワークは被締結物がアルミ合金A5000番台なので、前者では7000番台、後者では、陽極酸化処理(アルマイト処理)が有効です。
⑤について
前述の【軸力>締結体の強度】になっています。
締め過ぎ、軸力の出過ぎです。
締め付けトルクの見直し、ねじサイズの見直しになります。
⑥について
めねじの強度不足です。金属ワイヤーインサートをめねじに挿入し、補強することが効果的です。
5.トラブルの本質は軸力確認をしていないこと
前項で簡単な対策をご紹介しましたが、トラブルの本質は決められたトルクで締め付けた際に、どれだけの軸力が出ているのかを把握していないことです。
特に今回のケースでは、ボルト本数が多いので、軸力のバラツキを確認しておく必要があります。
さらには、実際に稼働させて、時間経過で軸力がどう変位するのかも確認することも有効です。
例えば、機械を100時間稼働させた後、500時間稼働させた後、どのぐらいの軸力が残っているのかを確認することです。
6. 軸力を可視化するには
軸力の変位を観察するためには、可視化や数値化する必要があります。それにはいくつか方法があり、主なものは次の3つです。
①ひずみゲージ
ゲージをボルトに取り付けて、締め付けた際のボルトのひずみ量を軸力に変換します。
②ロードセル
ワッシャー形状等の圧力センサーを利用し、ボルトを締め付けることによって受ける荷重を軸力に変換します。
③超音波ボルト軸力計
締め付け前と締め付け後、ボルトに超音波をあてて、長さを計測し、伸び量を軸力に変換します。
上記のように、軸力測定するには、ボルトに特殊な加工を施す、専用の測定機器を利用する、といったようなことが必要です。
その中で、①と②は実際のワークとは少し掛け離れた方法での測定となります。
となると、残るは③です。この方法では、実際のワークに極力近い状態での測定が可能です。
7. 超音波ボルト軸力計での測定
実際には以下の手順で測定します。
①ボルトを準備します
②締め付け前にボルトの全長を計測します
③締め付け後に全長を計測することで軸力が測定できます
ただ、この方法で測定するためには、原則としてボルト両端を平行研磨しておくことが必要です。
平行度が確保されていないと、超音波をあてたときに正しくボルト長さを計測しないおそれがあるからです。
ボルト長さを正しく計測していないと、正しい軸力変換も出来ません。
8. 軸力測定の結果
超音波ボルト軸力計を利用して締め付け直後に軸力測定すると、設定軸力15kNに対し、ある箇所では約半分の軸力しか出ていませんでした。
これでは、稼働時の振動や衝撃に耐えることは困難だと想定することが出来ます。
そして、ある部分で軸力低下が発生すると、他の箇所に過大な負荷が掛かり、その部分も軸力低下を誘発しかねません。
原因はおそらく、ステンレス鋼が持つ摩擦係数の高さにより、軸力のバラツキが発生したと考えられます。
対策としては、すでに記載したように、可能なら潤滑処理なのですが、このワークでは使用可能だったので、試作後に再度軸力測定しました。
結果としては、軸力のバラツキを抑えることが出来ていました。
ここで疑義を感じる方がおられるかもしれません。
つまり、摩擦係数を低減させると、ゆるみやすくなるのではないか、です。
ところが、ボルトは外力に負けない軸力が出ていると基本的にゆるみません。
今回の解決製品と軸力測定サービス
①潤滑処理
・ゾルベスト
・二硫化モリブデンショット
②評価試験
・超音波ボルト軸力測定