こんにちはー、りびぃです。
普段はFA(ファクトリ・オートメーション)の業界で機械・電気・制御設計をしている現役のエンジニアです。
機械を稼働させるためには動力源が必要ですが、昨今製造される自動機のほぼ全ては電気を動力源としています。
電気は他の動力源と比較すると、
- エネルギー変換の効率が高い(機械的な力・光・音など)
- 細かい制御、高精度な制御が容易
- アクチュエータ用途だけではなく、照明、センサ、リレーなど幅広い用途に利用できる
などといったメリットがあるためです。
しかし電気を扱う上では適切な専門知識をもとにした「安全対策」を施すことが非常に重要となります。
- 漏電
- 短絡、ショート
- 過電流・過負荷
- 接触不良
などによって感電や火災などの原因になることがあります。
さらに電気自体は目に見えないため、ちょっとした不注意に気づきにくいという厄介な特徴があります。
そこで安全対策としてFAでよく使われるのが「漏電ブレーカ」「サーキットブレーカ」「サーキットプロテクタ」の3つになります。
これらはそれぞれ異なる機能と用途があるのですが、名前が似ていたり、見た目も若干似ているということから、特に経験の浅い人の中には違いがわかりにくいと感じている方も多いです。
ただこれらの違いがわかるようになると、機械が不具合を起こしたときにその原因究明が素早く行えるようになるため、設備の立ち上げや生産の稼働に大きな悪影響を与えずに済むようになります。
またこれらは電気的な安全対策の中でもかなり基本的なものなので、電気制御以外のエンジニアの方にもぜひ身につけていただきたいと思います。
そこで本記事では、「漏電ブレーカ」「サーキットブレーカ」「サーキットプロテクタ」の3つの特徴の違いや用途などについてわかり易く解説をしていきます。
漏電ブレーカとは
漏電ブレーカ(ELB, Earth Leakage Circuit Breaker)あるいは漏電遮断器の目的は、一言でいうと「漏電を検知して動力を遮断する」というものです。
多くの場合、一次側からの電気を盤内で受け入れる箇所に一つ配置されます。
パッと見ると、ほかのブレーカとの違いが分かりにくいのですが、以下の図のポイントを押さえておくと簡単に見分けることができます。
漏電ブレーカの「漏電」とは「電気が本来通るべき経路から外れて、外部へ漏出してしまうこと」をいいます。
漏電が起こると、本来流れてはならないところへ電流が流れることになり、火災や感電事故につながるリスクが高くなるので大変危険です。
漏電の原因には、
- 配線の絶縁不良
- 水分や結露の付着、湿気
- 埃や汚れ
- 施工不良
など様々ありますが、ふとした瞬間に漏電が起こることが多いので対策をすることが非常に重要なのです。
ただし漏電ブレーカはあくまで「漏電を検知したら回路を遮断する」ものです。
漏電してしまった電気そのものを安全に処理することや、そもそも漏電ブレーカを適切に作動させるためにはアース線を適切に配線する必要があります。
よく洗濯機や電子レンジ、冷蔵庫のコンセントに緑、または緑と黄色の2色があるのを見かけたことがある方は多いと思いますが、このアース線を敷設するによって漏れ出た電気を大地に逃がし、事故を防ぐことができます。
さてここで漏電ブレーカの話に戻ってきますが、漏電ブレーカは交流電流を扱います。
そのため特に異常がない場合は、漏電ブレーカを行き来する電流の差はほとんどゼロとなります。
一方で漏電が発生するとその電気はアースへと流れていくため、一次側の電流に比べて二次側の電流が小さくなります。
この電流の差が感度電流を超えると漏電が発生したと判断をし、漏電ブレーカが作動して回路を遮断(トリップ)するという仕組みになっています。
個人的な経験でいうと、生産設備では感度電流が30mAのものがよく使われる印象がありますが、選定の際には設備の特性や設置環境に応じて適切な感度を選択する必要があります。
ちなみに、漏電ブレーカには過電流保護機能が備わったタイプもあり、特に現在ではこちらのタイプのほうが主流になっています。
客先の仕様書などに記載されていることも多いので、必ず確認するようにしましょう。
漏電ブレーカの基本的な使い方
漏電ブレーカの中央には上下に動かせるレバーがあるので、そのレバーを上げればON(通電)、レバーを下げればOFF(遮断)というようにして手動で切り替えることができます。
仮に漏電ブレーカが漏電を検知するとトリップボタンが飛び出し、さらにレバーが自動的にOFF、またはONとOFFの中間位置に切り替わります。
漏電ブレーカが作動したということは「そのブレーカから二次側の回路内のどこかで漏電が発生している」ということになりますので、電気的な知見がない方は漏電ブレーカをOFFにした状態にしておきましょう(ONにすると再び漏電が発生する可能性が高いです)
電気専任者の方に漏電個所を特定いただいたのち、漏電ブレーカをONにして復旧をさせていきます。
漏電ブレーカにはテストボタンが装備されており、漏電ブレーカの設置直後や定期点検の際の動作確認を行うことができます。
場合によっては設備安全に関する客先立合いの際に実施されますので、使い方を覚えておくようにしましょう。
サーキットブレーカとは
サーキットブレーカ(配線遮断器)は、MCCB(Molded Case Circuit Breaker,)ノーヒューズブレーカー(NFB, No-Fuse Breaker)あるいは単にCB(Circuit Breaker)とも呼ばれるブレーカです。
このサーキットブレーカは過負荷や短絡などによって異常な過電流が流れた際に一次側の回路を遮断し、接続されている機器や電線の損傷、火災などの事故を防ぐために使用されます。
例えば
- モータのトルクが不足している
- 動作部にワークや異物が噛みこんでモータが回転できなくなる
- ショートが発生する
などにより過剰に電流が流れると機器の発熱が多くなり、機器を損傷したり火災が発生するといった事態にまで発展することがあります。
仮にサーキットブレーカが導入された系統に過剰な電流が流れた場合には、内蔵された熱動素子や電磁素子が作動して接点を開放するという仕組みで回路を遮断することができるので、大きな事故や機器の損傷を防ぐことができます。
その際にはサーキットブレーカのレバーが自動的にOFFになる、またはONとOFFの中間で止まります。
サーキットブレーカの形状はメーカやシリーズによって多種多様で、中には漏電ブレーカと見た目がそっくりなものもあります。
ただ漏電ブレーカとは違い、サーキットブレーカには感度電流の表記がないので見分けるポイントとして覚えておくとよいでしょう(前述のとおり、過電流保護機能付きの漏電ブレーカというものもあります)。
ACモータの駆動回路やヒータの系統が存在する際には必ずサーキットブレーカが導入され、基本的にはその系統の上流に配置されます(DCモータの系統に使用できるタイプもあります)。
そのうえで電気的な条件(許容電流や配線の長さ)によっては、一つのブレーカに複数のモータやヒータの回路を紐づけたり、逆に系統を分割したりします。
加えて現場ではサーキットブレーカによって各系統を手動でON/OFF切替することによって、
- 漏電ブレーカトリップ時に該当箇所を特定する
- 設備回路の一部のみを遮断してメンテナンスを実行する
- 盤を分割した際に、メイン制御盤からの配線を受け入れる
といった用途にも使用するので、電気ハード設計ではこれらも考慮して回路を設計するようにしていきます。
モータにはモータ用のサーキットブレーカを使う
同じサーキットブレーカでも、モータの駆動回路にはモータ用のサーキットブレーカを選定する必要があります。
といいますのもモータの特性上、モータ始動時に定格電流のおおよそ3~8倍の突入電流(サージ)と呼ばれる大きな電流が流れるのですが、モータ用ではない一般的なブレーカを使用すると突入電流によってトリップをしてしまうのです。
そのためモータを動作させることができなくなってしまいます。
モータに使われるサーキットブレーカは「モータ始動時の突入電流に対してはトリップしないけれども、過電流に対してはトリップする」というようにモータ用に設計されているため、一般用と間違えないように使用することが重要です。
モータを使った機器は、
- 自動機の搬送用アクチュエータ
- 加工機の回転部
- ファン、ブロワ、へパフィルタ
- 集塵機
- コンプレッサ
- 冷却器
などなど多岐にわたりますが、その用途を加味し、そのうえでモータの種類やモータの始動方法などを踏まえたうえで、適切なサーキットブレーカを選定するようにします。
サーキットプロテクタとは
サーキットプロテクタ(CP、Circuit Protector)とは、過電流から機器や電線を保護するために使用される保護装置です。
その機能自体はサーキットブレーカと同じですし、形状もサーキットブレーカとかなり似ているものもあります。
しかし、両者はトリップする電流値に明確な違いがあります。
サーキットブレーカは比較的大きな電流に対して作動するように設計されていますが、サーキットプロテクタはより限定された小さな回路、小さな負荷を保護する目的で使用します。
おおよそ0.1A~30A程度の定格電流で作動するような回路に使い、個人的な経験からいうと、
- 直流安定化電源
- ファン
- QRコードリーダ
- DCモータ
などといったような比較的負荷が小さい系統の上流に配置されることが多いです。
サーキットプロテクタの中にも感度特性によっていくつか種類があり、
- 瞬時形
- 高速形
- 中速形
- 低速形
などがあります。
実際にサーキットプロテクタを選定する際は、保護したい各回路の消費電力を計算し、トリップさせたい電流値を算出したうえで一つ一つ選定するようにしていきます。