こんにちはー、りびぃです。
普段はFA(ファクトリ・オートメーション)の業界で設計の仕事をしています。
FA業界で装置を設計する際は、主に「機械設計」と「電気・制御設計」の2つに分かれて作業することが一般的です。
流れとしては、
- 装置の仕様や電気ハード以外のハードウェアを機械設計者が設計をする
- モデルや図面を電気・制御設計の人に渡す
- 機械設計からもらったモデルや図面をもとに、電気・制御の設計をする
といった感じに「機械設計→電気・制御設計」となります。
しかしそのような中で、実際の設計現場では機械設計者と電気・制御設計者の間でトラブルが起こることも少なくありません。
特に多いのが配線に関するトラブルで、機械設計からもらったモデルや図面を見て電気設計者が「これ、配線通すスペース全くないじゃん!!!」と怒り沸騰するケースは少なくありません。
とはいっても機械設計者からすると「いやいや、スペース自体は設けたつもりだけど?」「具体的に言っていることがよくわからないけど、じゃあどうすればいいのか言ってくれる?」となりがちなのですが、電気設計者からの視点で言うと、
- 言いたくてもすでに出図がされているので、簡単に図面修正の対応をしてもらえない
- 電気設計者は電気設計周りのことしか詳しくないのでうまく提案ができない
となってしまうので設計段階で解決することが難しいのです。
その結果なんだかんだで実際の現場でトラブルが頻発し、お客さんからの信頼が失われかねない事態になってしまいます。
もちろん電気設計者が設計段階でうまく解決できていれば・・・というのも一理ありますが、個人的には、
- 機械設計の段階で配線周りの設計ができている方が出戻りが少ない
- 機械設計者は3DCADでの設計が主流である一方、電気設計者が3DCADを持っていないケースが多い
- 機械設計者に比べ、電気・制御設計者はスケジュールが厳しい場合が多い
ことを考えると、機械設計者がある程度の配線周りの設計の知識を身につけておくことが望ましいと考えます。
そこで今回は機械設計者でも知っておきたい最低限の配線知識について解説をしていきたいと思います。
機内-機外間のケーブル動線を確保しておこう
制御盤から機内へ線をつなぐためには、開口が必要になります。
配線は多くの場合「架台下からベースプレートの開口部を通す」というルートが採用されますので、機械設計の際にその配線用の開口部を忘れずに設計しておくことが重要です。
ただし、その開口の大きさや位置をテキトーに設けるのはNGです。
- 配線作業がしやすい位置や大きさで設けられているか
- グロメット等を通す必要がないか(特に密閉が必要な設備の場合は必須)
- 開口部の位置と制御盤の位置とが重複しないか
- 開口部が大きすぎて、安全の観点から指摘されることはないか
など十分に考慮して開口を検討するようにしましょう。
たまに機構の設計ばかりに集中しすぎて、配線ルートのことをついつい忘れてしまう設計者を見かけますが、これの検討漏れはもちろん機械設計者のミスとなってしまうので注意しましょう。
配線の許容曲げRをよく確認しよう
配線敷設の検討においては、配線の曲げRが小さくなりすぎないように十分注意を払うことが重要です。
配線敷設の検討は、エア配管敷設の検討と内容が似ている部分も多いですが、決定的に違うことの一つに「配線は好きなところで自由に切断できない」という点です。
例えばエア配管を敷設する上で曲げRが小さくなる部分があれば、適当なところで配管をカットしつつ、エルボなどの継ぎ手を導入することで配管に無理な負荷がかからないようにすることができます。
しかし配線の場合は、配線への負荷をエア配管のように解決することが困難なのです。
一般的な光電センサのような細い線であれば比較的問題にはならないのですが、
- モータの動力線
- ロボットケーブル
- カメラ用のケーブル
- 光ファイバ
などの場合は配線の取り回しの難易度が高いので、しっかりと無理のない配線ルートを設計するようにしましょう。
配線に許容されるRの寸法は多くの場合メーカーカタログに掲載されていますが、実際の設計においてはカタログ値よりもある程度Rに余裕を持っておくことをおすすめします。
特に気を付けたいのが端子やコネクタ付近の曲げRです。
この付近は曲げRを確保しづらいことが非常に多いですし、コネクタの抜き差しのスペースも確保しておく必要がありますので、検討漏れがないようしっかりと反映させるようにしましょう。
ケーブルキャリアを正しく選定しよう
装置の可動部上(特に長いストロークで直動するユニット上)へ配管や配線をするときには、基本的にケーブルキャリアというケーブル類を保護するための部品の中を通すようにします。
ケーブルキャリアを使わないと装置が稼働するたびにケーブル類が暴れるので、周辺部品に引っ掛かったり擦れたりして、損傷や断線をする原因になってしまうからです。
このケーブルキャリアの選定は機械設計者が行うケースが多いのですが、ケーブルキャリアの選定についてしばしば誤っているものを現場で見かけます。
まず知っておくべきことの一つ目は「ケーブルキャリア内で配線および配管を通す部屋を分ける」というものです。
エア配管と配線をケーブルキャリア内で通す際それらを隣同士に並べてしまうと、可動部が動作した際に配管と配線の材質の違いなどによってお互いが大きく擦れてしまうのです。
その結果配管や配線が損傷したり、それらの摩耗粉が装置内に混入したりするリスクが発生します。
ケーブルキャリアはあるサイズ以上になるとオプションパーツで部屋を分けることができるようになっていますので、配管と配線を併用する際はぜひ検討してみてください。
また配線の中でも信号線と動力線とを併用する場合も、ノイズ対策の観点からケーブルキャリア内の部屋を分けるようにしましょう。
二つ目は「ケーブルキャリア内のケーブル占有率は半分以下を目安にする」というものです。
ケーブルキャリアの容積に対して、どの程度ケーブルや配管を敷設しているかという割合のことを「占有率」と言います。
あまりケーブルキャリアになじみのない方にとっては「ケーブルキャリア内に詰められるだけ詰めてしまおう!」と思いがちですが、これはNGです。
ケーブルキャリアによって機械可動時でもケーブルがガイドされているとはいえ、ケーブルキャリアの中である程度ケーブルが動きます。
その際占有率が高すぎると、ケーブルキャリア内で配線が擦れやすくなり、ケーブル損傷の原因になります。
また設備設計時は占有率に余裕があったとしても、エンドユーザでの現場改善によりどんどんセンサ類が追加になり、気が付くと占有率が非常に高くなってしまうケースもあります。
これらを加味して個人的な経験上、占有率が半分以下となるようケーブルキャリアを選定することが望ましいです。
旋回装置上への配線は難易度が高い
「コンベヤごと90°旋回させ、ワークの搬送方向を切り替える装置」「ワークをチャックした状態で180°旋回しワークの裏表を逆にする装置」などのように、とある装置や機構ごと旋回をさせる装置というのがFA業界でしばしば見かけます。
旋回の動き自体はそこまで難しいものではないのですが、しかし「旋回される機構への配線・配管が必用」となると難易度が高くなります。
まず、旋回の動きは配線をねじる動きになるので、ある程度配線を固縛しないと配線が暴れやすく、周辺部品に引っ掛かったり、噛みこんだりしやすいのです。
かといって固縛をしすぎると配線がねじ切れてしまい、断線の原因にもなります。
一応ケーブルキャリアを旋回装置に使用することもできるのですが、そのためにはかなりの配置スペースが要求されます。
旋回機構周りの機械設計はスペースで悩まされることが多いせいか、個人的な経験上、旋回装置にケーブルキャリアを採用している装置は非常に稀です。
ではこのような場合どうするかというと、最優先で検討するべきなのが「旋回装置上への配線自体を減らす」というものです。
これは例えば
- 光電センサを使って旋回装置上のワークを検知したい場合に、旋回装置の外にセンサを配置する
- 旋回装置上のワークの受け渡しを、旋回装置外に設けたプッシャ(ワークを押し出す機構)を使って行う
などといった工夫です。
ただこれではどうしても対応できない場合、次に検討するべきなのは「旋回中心軸を配線敷設のために中空軸にしておく」というものです。
現場で作業しているとよくわかるのですが、旋回装置における配線関係の不具合として最も多いのが「周辺部品への引っ掛かりや、噛み込み」によるものです。
しかしこれは、旋回装置上への配線が中心軸を通っているほど配線が暴れにくく、トラブルのリスクを低減させることができます。
場合によっては、旋回装置内外への配線を確実に行うために「スリップリング」と呼ばれる部品が導入されることもあります。
これは旋回軸上へ配置をする部品ですが、配線施工のみでうまく対応する場合に比べると施工業者による品質のばらつきが低くなります(エア機器に詳しい方にとっては、「ロータリー
ジョイントの配線板」と思っていただけるとわかりやすいです)。
スリップリングは「意外と配置スペースが必要」「受け渡しできる配線の極数や電流に制限がある」「入手性が低いものもしばしばある」などのデメリットはあるものの非常に高い堅牢
性が要求されるような装置においては導入を検討するべき部品です。
配線によく使われる部品を覚えておこう
機械設計でモデルが完成して、配線のルートも一応ちゃんと検討して、いざ電気設計者に渡したところ、「これじゃ配線できない」と言われて「え、なんで・・・?」と思った経験はないでしょうか?(私は何度かあります笑)
それは電気設計には、配線そのものだけではなくそれに付随する様々な部品も見えており、それを加味した上でスペースを判断しているからです。
そうなるとせっかくモデルが完成しても、配線のためにさらにモデル修正をしなければならなくなります。
このような失敗をしないためにも、配線の際はどのような部品が使われるのか、ここでは3つ紹介します。
一つ目が「DINレール」です。
DINレールは盤内配線や畿内配線でよく使われる部品で、配線の固縛はもちろん、電気機器の取付にもよく使われる非常に便利な部品です。
配線の固縛用として使う際にはセンサ類の線など細い線で、かつそこまで線の本数が多くない箇所に採用されます。
各機構のフレーム・コラムの側面などに配置しておくと良いです。
ちなみに配線の固縛用としてDINレールを使う際には、スペーサやカラーなどでちょっとだけDINレールを浮かせておくと配線作業が非常にやりやすくなるので、ポイントとして押さえておきましょう。
二つ目が「配線ダクト」です。
こちらも盤内配線や機内配線でよく使われますが、太い動力配線や何十本もある信号線でも収納することができます。
ただし一つの配線ダクト内で動力線と信号線の混在が禁止であったり、配線ダクト内の占有率にある程度余裕が必要だったりするので、その点を押さえながらダクトレールの選定やスペース確保が必要になります。
三つ目が「ケーブルラック」です。
こちらは主に機外配線用として用いられ、各制御盤から装置までを配線するにあたり、架台の下や装置の上を通す際に用いられます。
ケーブルラックは装置で使われるケーブルのほとんどが集約されることが多く、かなりの重量の配線を支える必要があるのですが、
ケーブルラックは鉄製であるため剛性が高く、フレーム・架台などへのボルト止めのスパンを比較的長く取ることができます。
一方でケーブルラックを通す箇所はしっかりと配置スペースを設けることが必要になるので、例えば架台下に制御盤やエアパネルがテトリスのように配置されてしまっているとケ
ーブルラックを通せなくなります。
以上3つが基本となりますが、1~2本の細い線の畿内配線等であれば「ケーブルマウント」と呼ばれる部品で固縛されることも多いです。