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技術コラム

生産設備の機械設計のリアルな業務を徹底解説

2025.07.30
現役設計者の生の声

こんにちは、りびぃです。

私は普段、生産設備の機械・電気・制御の設計および現地調整の業務をしている現役のエンジニアです。

この生産設備の技術職は、いままでですと「機械系・工学系の大学や専門学校を卒業した方がつく職業」というのが一般的でした。

しかし昨今界隈の方々と話をしていると「最近、元文系の方で機械設計の仕事に転職をした、または考えている方が増えてきている」というのを耳にします。

おそらくもともと文系だった方の中で「手に職がつく仕事がしたい」と考える方が増えてきたことや、リスキリングが推奨されてきていることなどが背景にあるのだと思います。

しかし生産設備は、それ自体が表舞台には出てこないので業務内容がなかなか理解されにくく、認知もされにくいという特徴がいまだにあります。

私も自分の仕事について、家族や美容師の方に説明をしたことがありますが「なんだか難しい仕事をしている」程度にしか理解されていません。

このような元文系の方が手に職をつけるために選択する職業としてITエンジニアというのがよく候補にあげられますが、この生産設備の機械設計は、簡単ではないにしろ、文系の方もチャレンジしてみる価値はある職業だとも思っています。

なので少しでも生産設備の機械設計の仕事が認知されたり、興味を持った人への理解が深まればいいなと感じています。

そこで本記事では、長年機械設計の最前線で業務をしている私の経験から、生産設備の機械設計のリアルな業務について徹底解説をしていきます。

なおこの記事では、生産設備の設計の業界に限定した話になる点についてご承知おきください。

設計スキルとして求められること

設計をする上ではJISや製図記号などを理解する必要があることはもちろんですが、ここではそういったわかりやすいもの以外の、実際にプロジェクトを経験しないとわかりにくいことを中心に触れていきたいと思います。

一つ目は「お客さんの要望を具現化するための構造・機構を考え出すスキル」です。

お客さんからの要望は「配置スペースが○○×○○で、モータは○○を使って・・・。基本的には参考図面と同じにして・・・」というようにかなり具体的なものから、「要するに○○をxxするのを自動でやりたい」というような抽象的なものまで多種多様にあります。

具体的な要望の案件、抽象的な要望の案件それぞれに違ったスキルや難しさがありますが、それぞれのお客さんの要望をかなえられるような構造・機構を考え出すことが非常に重要になってきます。

例えば「ワークの寸法を自動で検査する装置」という要望があったとき「検査の方法」について、接触式のセンサを使う場合、レーザセンサを使う場合、画像センサを使う場合とで必要となる機材が異なってきます(画像センサの場合には照明が必要など)。

あるいは検査の精度について、十分な検査精度が得られるような解像度のセンサがセンサメーカのラインナップにあるかどうかも機械設計として調査が必要です。

またモータやアクチュエータでセンサを移動させながら測定する場合に動作精度が十分満たせそうか、動作中の振動などが測定に悪影響を及ぼさないよう十分剛性の高い構造であるかどうかなども機械設計として検討が必要です。

他にも

  • ワークの大きさ、形状、その他特徴を考慮した上で成立しうる機構になっているか?
  • ワークの投入方法はどのようにするのか?
  • ワークの位置決め方法あるいは固定方法はどのようにするのか?
  • 検査のサイクルタイム(一回の検査にかかる時間)は十分短いか?
  • 装置の現地調整作業やメンテナンスがしやすい構造になっているか?
  • 設備の安全性は高いか?

など、お客さんの要望を深掘っていくと考えるべきことがたくさん出てきます。

もちろん装置を設計する上では電気制御も非常に重要ですが、装置はどんなに電気・制御の工夫をしたところで機械ハードの性能を超えることはできませんので、責任は重大です。

そのためにも多数の機械部品や機構の特徴や計算方法などをしっかりと理解し、必要に応じて計算書、フローチャート、動作線図と呼ばれる技術図書を作成するなどして確実にアイデアを磨きこんでいきます。

その上で価格や納期がお客さんの要望に合っているか、その他も含め総合的に競合他社よりも優位性があるかも判断しながら進めていくことが重要です。

二つ目は「数字を肌で感じるスキル」です。

これは一例をあげると「板厚2.3mmの鉄板の剛性は十分高いか?」という問いに対して、自分の感覚として適切に判断ができるスキルというようなものです。

  • 手で曲げようとしたときに、変形しやすいか?しにくいか?
  • 鉄板の上に乗った時に、強度は足りているか?
  • 持ち上げようとしたときに、人間の力だけで持てそうか?クレーンが必要か?

というものです。

当然鉄板の大きさや固定方法によっても大きく異なってきますが、それらも込みでどのように判断するかで設計のアウトプット(品質・納期・コスト)は全く異なるものになります。

もちろん判断に迷ったときには、

  • ある程度簡素化して手計算をしたり、
  • 解析計算をしたり、
  • モックアップを作ってテストをしたり、
  • リスクを受け入れたうえで、失敗したときの挽回策を準備したり、

などをすることも重要です。

しかし、設備を構成するあらゆる部品に対してこのようなことを行ってしまうと、部品点数が数千~数万にも及ぶことがある生産設備にとっては時間やお金がいくらあっても足りません。

そのため、特にベテランの機械設計者は、寸法・重量・剛性・速度などの数字を直感的に判断できるスキルを身に着けています。

その直感に基づいて適切な機械設計を行うことで、短納期かつ低価格で設計を進めることができるのです。

よく「設計の仕事だからといって、設計事務所にこもってばかりいないで、積極的に現場に行け」なんていう人がいますが、この「数字を肌で感じるスキル」は現場に行って実物に触れる機会を増やさないと身につけることが非常に難しいからというのが理由の一つです。

使うツール

私は普段YouTubeでの発信活動等も行っていますが、その中で比較的多いのが「どんなツールのスキルを身につければよいですか?」というものです。

そこでここでは機械設計の仕事で使用するツールについて紹介していきます。

まず一つ目は「3DCAD」です。

3DCADが登場してからもう数十年がたちますが、最近ようやく設備設計においても3DCADが主流になりつつあります。

設備設計でよく使われる3DCADは

  • iCAD SX
  • SOLIDWORKS
  • CATIA
  • Inventor

あたりです。

3DCADを使うことによって、2DCADに比べると比較的短時間で設計を行うことができたり、一部の設計ミスを発見しやすいなどのメリットがあります。

また、その3Dデータを使って解析、動作シミュレーション、BOM(部品表)連携、CAM連携などを行うことができます。

ただこういった付加的なスキルまで求められるかどうかは勤務先・取引先の企業次第のところもあるので、まずは3DCADを使った設計そのものができることが重要となります。

二つ目は「2DCAD」です。

私の経験上、

  • 設備設計の中でも比較的大型の設備(設備の稼働期間が30~40年など)のもの
  • どちらかというと建築物に近いような設備
  • 改造設計が中心の機械(ベースの設計が2Dなので、改造設計も2Dになりがち)

あたりでよく採用されている

具体的な2DCADのソフトですとほとんどの場合で「AutoCAD」が使われますが、AutoCADに酷似したより安価な2DCADもいくつか登場してきています。

3DCADでも2Dデータを開いたり編集すること自体は可能ですが、3DCADでの2D設計は操作感が悪いことも多いのが現状です。

そのため、2DCADに特化したソフトを使うか、3DCADで3Dデータ化した後に2D化する方が良いです。

ただし先述の通り、最近の設備設計は3DCADが主流ですので、特に理由がない限りは3DCADのスキルを身に着ける方が優先度が高いです。

三つ目は「Excel」です。

Excelは事務的な書類やプロジェクト管理を作る際にもよく使われますが、設計図書の作成にもよく使います。

計算書を作成したり、機器選定する際にスペックを比較したり、BOM(部品表)を作成したりなどします。

また開発プロジェクトなどではよくCSVと呼ばれるファイル形式が使われますが、このCSVファイルはエクセルで開くことができるので、開いたデータを閲覧したり、分析したり、グラフ等にまとめたりなどもすることができます。

このようにExcelは設計現場でも幅広く使われますので、基本的なコマンドや設定、関数などを使いこなせるようにしておきましょう。

またExcelではプログラミングをすることができ、そのプログラミングをマスターすれば膨大な業務を一瞬で終わらせることも可能になるので、興味のある方はチャレンジをしてみてください。

プロジェクトのマネジメント

生産設備では設備製作のプロジェクトが立ち上がると(通称「キックオフ」といいます)、まずはプロジェクトのメンバーと各担当の割り振りがされていきますが、

このときそのプロジェクトマネージャー(そのプロジェクトにおける責任者)として任命されるケースが多いのが機械系エンジニアです。

と言いますのも、少なくとも日本においては「機械の基本仕様の検討および設計は機械設計者が考える」というものが現在も主流だからです。

日本のエンジニアの特徴として「ハードに強い」と言われ続けていますが、それは現在においても同様で「まずハード的に考えてからソフトを考える」という工程が多いのです。

そのためプロジェクトの上流工程である機械系エンジニアが責任者になることが多いです。

そして機械的な基本仕様が決定したのちに、電気・制御系のエンジニアが基本仕様の検討および設計をすすめていくという流れになります。

プロジェクトマネージャーの仕事は機械の基本仕様の承認はもちろんですが、そのほかにも

  • 予算の設定や管理
  • プロジェクトのスケジュール管理
  • 設計図書の確認、承認
  • 発注書類の確認、承認
  • お客さんとの交渉
  • 関係部署への業務指示
  • 外注業者への発注・業務指示
  • 社内上層部への進捗報告
  • 帳票類の作成・承認

などなど非常に多岐に渡ります。

技術的な内容を熟知していることはもちろん、ものごとが計画通りに進められるよう、またトラブルが発生した際に事態を収拾できるよう、スケジュール、予算、作業員の人数などを考慮しながら臨機応変に対応・判断することが求められていきます。

ちなみにプロジェクトの規模が大きくなると、プロジェクトマネージャーだけでは業務が手一杯になってしまいますので、エンジニアリングマネージャー(技術責任者)を機械系・電気系それぞれ一人ずつ任命するという体制をとったり、ある程度業務範囲を切り分けて設計ごと外注することも多いです。

このような高度なスキルが必要になってくるため、少なくとも機械設計スキルが高いと会社に判断された人が任命されることが一般的です。

機械設計の難しいところ

世の中にはたくさんの技術職がありますが、私の経験上、生産設備の機械設計には独特の難しいところがあると感じているので、そこについて触れていきます。

一つ目は「仕事道具が高価になりがち」という点です。

例えば3DCADを使おうとするとそのライセンスを契約する必要があるのですが、その価格は買い切りで100万円以上、サブスクでも年間数十万円以上にもなります。

また解析やCAMなども併用する場合ですと別途オプションとして契約する必要があるケースがほとんどで、それらも年間数十万円にもなります。

使用するPCについても、理論上は一般的なPCでも動作はできますが、多数のモデルを表現したり解析をしたいとなると「ワークステーション」などの高性能なPCが必要となります。

もちろんその価格も数十万円~数百万円にもなります。

ほかにも産業用ロボットを扱うためのプログラミングツールやシミュレーションツールを使うにしてもライセンス契約が必要だったりと、都度都度費用が掛かってきます。

このように「スキルアップ目的で、個人的に購入・契約」をするにしてはとてつもなく高価になってしまうため、専門の講習やスクール、あるいは勤務先の環境を使ってスキルアップをしていくことが一般的です。

二つ目は「ミスをリカバリするために時間とコストがかかる」という点です。

機械設計は人間がする仕事である以上、時にはどうしても失敗・設計ミスをすることがあります(私も何度か失敗をしてきました)。

この失敗や設計ミスがプロジェクトの設計段階で発覚していれば対処はしやすいのですが、製造工程以降に発覚するとなると、そのリカバリをするのは大変です。

例えば

  • 部品の寸法を間違えていた
  • 機器選定をする際の型番を間違えた
  • 組立中に部品同士が干渉することが発覚した
  • 試運転中に部品の強度不足で機械が壊れた

などはよくある設計ミスの一部ですが、パソコン作業のようにDELETEで削除したり、Ctrl+Zで戻すことはできません。

「対策するために数万円~数百万円かかった」とか「部品の再発注のためにスケジュールが数週間遅れる」なんてことになりかねません。

これはプロジェクトの規模が大きければ大きいほど、ミスの影響度が高ければ高いほど被害が拡大することになります。

ですから機械設計は責任感をもって仕事をすることがとても重要なのです。

 

筆者プロフィール

りびぃ
「ものづくりのススメ」サイト運営者

2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。

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